「脳内将棋盤」というのがあるらしい。
将棋のプロ棋士同士が互いの脳内にある将棋盤で対局することもある。
リアルの将棋盤や駒はつかわずに対局する様子がテレビで放送された。
一流プロとはそういう芸当ができる人をいう。
囲碁の方は将棋よりももっとマス目が多くなるが、それでも一流棋士には「脳内碁盤」があり、頭のなかで対局を再現できるそうだ。
作家や編集者も一流になると「脳内原稿用紙」を使う。
『暮しの手帖』の編集をされていた花森安治さんは原稿を依頼されると、電車に乗っているときに頭のなかで原稿を書く。会社にもどってそれを原稿用紙に写すだけ。5~6枚の原稿ならそうやって書けると言っていたそうだ。(出典『思考のレッスン』(丸谷才一)
「キーボードがないと一切の原稿作りができない」と決めこんでいた私にとって、脳内原稿用紙の話はかなりショッキングだった。
キーボードがなくても原稿が作れるのだと教えられたわけで、実際に地下鉄やタクシーでそれをやってみたことがある。これがなかなか難しい。
長年、書きながら考えるくせがついているので、頭でそれをやると前後の脈絡がつながらず、まとまりのない文章になってしまうのだ。
だが、それをやっていた人がいたという現実は、私にもできる(はず)という自信を与えてくれた。もうすこし練習しようと思う。
原稿といえば、
「今日大学で教えている科目のうち、経営管理者の準備として最も有効な職業教育は、詩や短編小説を書く訓練である。自らの考えを表現する方法、言葉とその意味を知り文章を書くことを訓練することである」というドラッカーの言葉を思い出す。『現代の経営』にそうある。
半世紀以上も前の文章だが、今もなお経営者にとって灯明となるメッセージだろう。なぜなら、経営者が文章を書く機会はますます増えているからだ。
1.経営計画書
2.アニュアルレポート(株主への手紙)
3.ホームページ原稿
4.メール
5.ブログやSNSの文書
6.社員の日報へのコメント返信
7.マニュアル
8.チラシやポスターなどの営業ツール
あらゆる場面で経営者の文才が問われている。
詩や短編小説を書く訓練をしよう。そのためには、手本となるような詩や短編小説を見つけ、何度もくり返して読んでみよう。
短編小説の定義はまちまちだが、一般的には四百字原稿用紙10枚~80枚程度の小説をいう。
村上春樹なら『東京奇譚集』『女のいない男たち』などがそれにあたるし、司馬遼太郎なら『人斬り以蔵』『真説宮本武蔵』などだ。
ショートショート(超短編)という分野もあり、その代表者が星新一だ。『きまぐれロボット』や『ボッコちゃん』などの代表作がある。
それらのなかから手本となりうる作者を見つけ、ノートに書き写してみよう。句読点のつけ方から改行の仕方まですべてコピーしよう。
司馬遼太郎の場合、「必ず」と「かならず」が混在していることに気づく。どうして統一しないのだろう。どうしてここで改行するのだろう、なぜここは改行しないのだろう・・・。ひとつひとつに深い文学的意味合いがあるわけではなく、前後の文脈から作者の本能がそうさせているのが読みとれる。
「社長のための小説作成講座」というのもいつかやってみたい講座のひとつである。