人口減少→商売衰退→税収不足→厳しい年貢取り立てと荷役負担の増加。それがさらに人口減少に拍車をかけるという負のスパイラル。
江戸時代中期の仙台藩・吉岡宿はそんな町だった。現在の宮城県黒川群大和町である。
磯田道史氏の著書『無私の日本人』の中に収録されている「穀田屋十三郎」が映画化された。『殿、利息でござる』である。この物語は実話であり、主人公の酒屋「穀田屋」は今も営業しているそうだ。
監督は『ゴールデンスランバー』の中村義洋氏。主演は阿部サダヲ、共演に瑛太、妻夫木聡、竹内結子、松田龍平。それにフィギュアスケート世界王者・羽生結弦氏も出演するなど話題が多い。タイトルがコミカルであることや、阿部サダヲ主演であることなどから痛快喜劇を期待して出かけたが、笑える場面はあまりない。むしろ後半は泣ける場面が続く。
<注意>
ここから先は、映画をご覧になる予定の方にはネタバレになるおそれがあります。
夜逃げが続出していた。このままでは自分たちの宿場町がすたれる一方だ。なにか良い知恵はないか。思いあまったひとりの商人が立ち上がる。藩主宛てに直訴状を出すことにしたのだ。それが主演の阿部サダヲ演じる穀田屋十三郎。直訴人は死罪になることもある。仮にそれを免れたとしても氏素性がきびしく吟味されることになりメリットは何一つない。商人仲間(瑛太)が十三郎の行動を思いとどまらせた。そして前代未聞の一計を案じた。
その一計とは、宿場町の商人が金を出しあって藩主に金を貸せば利息がもらえるはず。当時の利息は10%が相場だったから、1,000両(3億円)集めれば利息は100両(3,000万円)になる。殿様相手の金貸し業をやろうと算段したのだ。だが、当の本人(瑛太)はそんな絵空事が実現するはずがないとも思っている。いったい誰が金を出すのか。それに藩がその金を借りてくれて利息を払ってくれるなどあり得ない話。ところが、その話を聞かされた十三郎(阿部サダヲ)だけは「できる!」と思った。
この構想のすごいところはふたつある。
1.貧しくて金がないのに、金を貸す側になろうとしている点。
しかも相手は「藩主」。これは社員が集まって会社に金を貸し、利息をもらおうとする以上の難易度である。
2.毎年もらう利息の3,000万円は出資者に配当されず、町の人々に分配しようとしている点。
つまり、町の人々の生活が楽になれば夜逃げする人も減り、商売もうまくいくようになる。だから、出資者である商人は利息をもらわなくても良いはず、と考えた点が秀逸だった。
問題は誰がお金を出すかである。
「町のために金を出してほしい。利息はもらえないし、元金だっていつ返せるか分からない」と正攻法で訴えてもなかなか乗ってこないはず。ひとりずつ、じっくり口説き落としていくしかない。
町には人間性丸だしのいろんな商人がいた。金はあるのに、道楽(温泉堀り)に夢中で金を出したがらない商人。町のためになるのなら店を潰してでも構わないと全財産を出そうとする商人、・・・。彼らは結束するため、自分たち用に掟をつくった。
それが「つつしみの掟」。
・この計画のことを話してはならない
・寄付するときには、自分たちの名前を出さない
・道を歩くときも真ん中ではなく、つつしんで端を歩こう
・酒席でも上座に座らず、つつしんで下座に
彼らの資金集めプロジェクトは8年後にようやく結実する。家財道具を売りはらい、嫁の着物や子どもの玩具まで売りはらって金を貯め、とうとう1,000両(3億円)を集めきったのだ。
町は豊かになり、それが今の大和町に引き継がれている。
十三郎の遺言が奮っている。
「私がしたことを誰にも話してはならない」
250年後、今こうして十三郎たちのプロジェクトが多くの人に知れ渡ってしまった。それにしても東北にすごい日本人たちがいたものだ。
★映画『殿、利息でござる』 http://tono-gozaru.jp/
★ご当地・大和町での舞台挨拶の様子
→ http://natalie.mu/eiga/news/185730