海面を一匹の魚が跳ねたらその下には大きな群れがあるといわれる。ビジネスでもその原理は当てはまるかもしれない。
何げない一人の声の向こうには、何千何万の潜在顧客が隠れている、というわけだ。
「ぬいぐるみの病院」は、ぬいぐるみを人間のようにして可愛がる人たちの支持を集めた。最初は、それがどの程度受け入れられ、ビジネスとして成立するかどうか、堀口社長は分からなかったはず。やっていくうちに手ごたえを感じ、やがて全国からぬいぐるみの入院患者が列を成す病院になった。この場合の「一人の声」とはご自分の声だった。
「時間を気にせずに鉄道模型を走らせるところってないですかね」そんな声に閃いたある温泉旅館の経営者。「そういうニーズは確かにあるはず」と旅館の宴会場を改造し、鉄道模型を走らせるジオラマにしたところ大ヒット。全国から鉄道ファンが集う聖地になった。ご主人はさらに発想を飛躍させ、旅行雑誌や旅行サイトへの広告出稿をやめて、鉄道雑誌に広告費用の大半をシフトした。
「高校野球で勝ち進むと選手のユニホームを洗うのが大変なんです」という主婦の声に閃いた。たしかに旅館の洗濯機だけでは台数が足りず、コインランドリーに行くわけだがそれでも人手が足りない。主婦の問合せを受けたそのクリーニング店は甲子園に出場した学校に宅配クリーニングの DM 営業を開始。毎回数校から受注し、今ではホームページからも受注して業績拡大に成功した。
鉄道模型の話にしろ、高校野球のユニホーム洗濯にしろ、お客の声を聞き流してしまうこともできたはず。海面を跳ねる一匹の魚は海中の大軍。一人のお客の声をビジネスチャンスに変えた。
「お客の声を聞け」とマーケティングの本にも書いてあるが、いろんなお客がいろんなことを言うから、どの声を拾い上げるべきか迷う。都合のよい声を聞き、都合の悪い声は無視しがちでもある。
「待てよ、それ面白いかもしれないな」と思ったものはすぐにテストする腰の軽さ、フットワークの良さを身につけよう。それが中小ベンチャーの信条でもある。
ただ注意したいこともある。「この企画は面白い。すぐに顧客1,000社に DM を送ろう」と思ったときでも、すぐに1,000社に送ってはならない。
DMで反応をみるというひとつのテストマーケティングでも、それそのものも小分けにしてテストをすることが肝要。つまりテストのテストだ。いきなり1,000社に送るのではなく、まずは50社にテスト送信し、反応をみる。場合によっては50社すべてに電話して声を聞く。修正改良を加えて、今度は200社に送る。さらに修正改良して残りの750社にドンと送る。
1.アイデアはすぐにテストするクセをつける
2.テストそのものの中でもテストをする
そうすればテストのテストなので、今までよりはるかに行動しやすくなる。そうやって一匹の魚の下に本当に大軍がいるのか、単なる一匹なのかを見きわめていく。
時代に取り残される会社はとにかく腰が重い。一方、時代に対応して変化する会社の多くは、このような動き方をしているものである。
《今日のインスピレーション》
先週の愛知県の N 社長との会話から今日の一本の記事ができました。感謝します。