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採用時における健康問題把握

北陸で居酒屋を一店舗経営している Y 社長(37)のもとに昨年11月、ふたりの見習い社員が入社した。ひとりは元タクシー乗務員で35歳。もうひとりは左官工をやっていたという27歳、ともに男性である。いままで Y 社長の奥さんが店を手伝ってきたが、2月の出産に備えて産休を取ることになっていた。

折りしも忘年会シーズンにふたりも入ってくれることになり Y 社長も奥さんも大いに喜んだ。多少の蓄えもあるので、当面は人件費の心配もなさそうだ。「子どものためにも、さあ、がんばるぞ!」と勢いこんで師走に突入した。

ところが、そのふたりの社員は Xmas を前に退職していった。正確にいえば、試用期間中にふたりとも「辞めていただいた」というべきか。35歳の男性は激しい腰痛患いをしていた。ビールケースを持てないだけでなく、1時間以上立っていることが耐えきれなかったのだ。27歳の男性はアルコール依存症がきつく、店内の酒を飲んでいないと手がふるえて厨房の仕事がまともにできない状態だった。

「残念でしたが、辞めてもらうことにしました」と Y 社長。私はその話を聞いて、「どうして採用時に健康状態を確認しなかったの?」と尋ねた。すると、まったく予期していなかった言葉が Y 社長の口からとび出てきた。

「武沢先生、本人の健康状態は採用時の基準にしてはならないと労務士の先生から聞きましたよ」と言う。履歴書の健康状態の欄に書いてあった「良好」という文字をそのまま信用するしかなく、健康に関する話題はまったく、しなかったというのだ。

たしかに労務士の言うことは原則論としては正しい。厚生労働省の見解では、本人の能力や経験、適性などを選考基準にすべきで、病気の有無や家族のことなどは判断材料にしてはならない、となっている。

だが、それは大原則の話。
現実問題としては飲食店で「1時間以上立っていられない」とか「アルコール依存症が治らない」というのは、適材配置で対処できるような問題ではない。働く場所は厨房と店頭しかないのだ。

入社時に提出してもらう書類のなかに「健康診断」が含まれるのはなぜ?と思われるだろうが、それは適材配置の参考にするためであって、選考基準に用いるためではない、ということになっている。

結論:採用時には健康問題を率直に話し合おう。

採用時に健康のことを根掘り葉掘り聞いてはいけないというのはまったくもって間違った考え。多くの人が病気や健康不安を抱えている。皆が健康優良児というわけではない。だからこそ、健康状態をよく聞いて、双方納得のうえで仕事につくようにしよう。企業側としては、採用時に本人にやってもらいたい仕事内容をきちんと説明し、本人の健康状態が職務遂行にたえうるかどうかを確認する必要があるのだ。適材配置をしようにもできないような個人企業や個人商店ではなおさらの事である。