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S 君について

先日、懐かしい友人と再会した。「久しぶりだなぁ」と互いに握手し、年内に仲間をよんで忘年会をやろうということになった。昨夜がその日だった。
彼の行きつけの料理屋であん肝や白子、焼き牡蠣などを肴に酒を酌み交わした。まったく飾らずに済む仲間との酒は実によいものだ。

彼は S 君という。一歳年下だが 35年以上の付き合いになる。かみさんに出会う前からの友人で今も付き合っている数少ない存在だ。
そういえば私が初めて出席した結婚式が彼の式であり、しかも訳あって私が新郎側の主賓をやった。よく事情が分からずに主賓を引き受けたものの、20代半ばで主賓の挨拶をするなど聞いたことがない。

S 君はどんな人だと聞かれたら、「笑福亭鶴瓶のような話術をもった、岡本太郎のような芸術家だ」と答えるだろう。
好き嫌いがはげしく、モノの言い方も感覚的である。判断基準は好きか嫌いか。直感に優れている。

温泉の話題になったとき、私がある有名な温泉ソムリエがつくった温泉番付の話をしたら、彼はまったく意に介さず「ボクのナンバーワンは大分のラムネ温泉です。なぜならば・・・」と自分の基準でラムネ温泉の魅力を語った。

彼は世間が一流だといってありがたがっているものを鵜呑みにしない。反対に、世間が二流だ、三流だ、と言っているものでも彼にとって素晴らしければそれが一流なのだと考えている。従って、レストラン格付けのホームページや本は参考にしないし、ネット書店での書評もまったく気にしないようだ。

以前に、「すごく面白かった」と彼がすすめる映画を見に行こうとした。念のために「ヤフーシネマ」でチェックしたところ、★が二つしか付いていなかった。だが、見に行ったら本当におもしろかった。

世間が一流といっているものを盲目的に一流と思い込んでありがたがるようなことはしない。S 君は今芸術家として人気だが、そうした独自のスタンスが彼を彼たらしめているのだと思う。