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ある新製品開発

「武沢、ちょっとこれを聞いてみな」と先輩から妙なヘッドフォンを手渡された。先輩のもう片方の手のひらには小さな機械が乗っている。怪訝に思いながらも私は素直に従った。

「いいか、カセットを再生するぞ」と先輩。「はい」と答えてしばらくしたらヘッドフォンの遠くの方からジェット機の音が聞こえてきた。やがてそれが大きくなり、ギューン!!と大音量になる。
音がピークに達したとき、左の耳から右の耳にその音が移動していった。まるで頭上をジェット機が通過するようで私は思わず首をすくめた。

わずか10秒程度のテープだったが、すっかり度肝を抜かれた。

「すげぇ、先輩。これ何ですか?どこに売ってるんですか」と聞いた。
ソニーウォークマンとの出会いである。1979年、当時24歳だった。
開発の陣頭指揮をとったのは当時 58歳になる盛田昭夫氏で、奇しくも今の私と同じである。

開発のきっかけは、当時名誉会長だった井深大氏が「機内できれいな音で音楽が聴けるモノを作って欲しいと」と、オーディオ事業部の責任者に掛けあったことにはじまる。
事業部長は、周りにあったテープレコーダーなどを様々に工夫し、持ち歩けるように最小化し、ヘッドフォンで聞けるステレオプレイヤーにした。その試作機を井深氏に渡したところ、その性能に井深氏が驚いた。直ぐに盛田に聴かせたという。

盛田はその大きな可能性に気がつき、自ら陣頭指揮して商品化を急がせたわけだ。その当時、音楽を外でも聴けるようにするという発想はウォークマンの偉大な発明である。

こうして満を持して発売されたウォークマン。

初回生産として 3万台作ったが、初月は 3,000台しか売れなかった。
「そんなはずはない」とその後、宣伝チームが知恵を絞り、若者のライフスタイルに訴求する宣伝が効果をあげ、2ヶ月目には 3万台を完売してしまった。それ以後、数ヶ月間にわたって生産が需要に追いつかない状態がつづいた。

このエピソードは当時のソニーという会社の自由で柔軟で闊達な社風を物語るものだと思う。

さて、ここであなたにお尋ねしたい。このウォークマン誕生秘話のどこに注目すべきか、と。

ウォークマン成功のターニングポイントは次の五つある。

1.機内できれいな音で音楽を聴くモノが欲しいと言った井深氏
2.すぐに試作機を作った事業部長
3.試作機をみて事業の可能性に気づき、製品化を命じた盛田氏
4.実際にウォークマンをデザインし製品化したエンジニアチーム
5.予期に反して冷たい反応を示した当初の市場にあって、それを人気製品にしたマーケティングチーム

実際にはもっと他にも様々なターニングポイントがあったと思われる。
だが大きな節目として上記五つだろう。そのいずれが欠けてもウォークマンの成功はあり得なかったわけだから、番号に優劣はつけられない。だが、私はあえて一つを選ぶならある番号を選ぶ。

あなたはどういう理由で何番に注目するか、ご意見をお聞かせ願いたい。 → info@e-comon.co.jp 「12月6日号 私の意見」係

回答者にはもれなく「2013年 Wish-List」(Excel 書式)をプレゼントさせていただく。

<明日につづく>

【編集後記】

◆今日は名古屋市内で講演です。