8月上旬のある夜、エアコンの設定温度を25度にしたのにまだ暑い。
ロンドン五輪の応援で興奮していたせいもあるが、なかなか寝つけない。そこで村上春樹が訳したレイモンド・チャンドラーを読みはじめたら、適度に眠くなってきた。よし寝よう!とベッド脇のランプを消した瞬間、どこからともなく涼やかな音色が聞こえてきた。やさしい笛の音色に近い。どうやらこおろぎのようだ。
「へぇ、こんなに暑いのに、すでにこおろぎがでているんだ」と驚いたが、考えてみれば8月7日はすでに立秋。暦は秋なのだからおかしくはないか。
それにしても早いなぁと思っていたら、翌朝、子供部屋の方からも同じ鳴き声が聞こえてきた。
「へぇ、こっちにいるんだ。それに朝から鳴くとは熱心だな」と思って子供にそれを伝えたら、次男が申し訳なさそうに「あ、お父さん、それぼくの着信音」と iPhone をふりかざした。あなたも虫の着信音にだまされないように。
さて、お盆休みがまだ続いている人もいるが「がんばれ!社長」は今日から通常業務にもどった。早速仕事がたくさん入っているので、元気にやっていきたい。
この夏休みに読んだ本に『一流たちの金言』(致知出版社、藤尾秀昭監修)がある。これは「月刊致知」に記事として紹介された原稿のなかから反響の大きかったものをハイライト的に紹介したもの。
ちょうどロンドンで世界のアスリートたちが連日熱戦を繰り広げている最中であったことから、この本にある数々の金言がメダリストのコメントと重なって気持ちよく読めた。
『一流たちの金言』のなかに、“人間国宝に学ぶ仕事術”として大場松魚氏(漆芸家。蒔絵の重要無形文化財保持者、通称:人間国宝)の仕事術が印象的だった。大場氏いわく、
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私は時計と競争する。だから夜も昼もあったもんじゃない。例えば、ひとつの品物を作るのに、この一面はさっき一分で塗れた。じゃあ次は五五秒で塗る。それも同じようにきれいにきちんと仕上げる。だからトイレに立てば立った分だけ、時計は先に進んで仕事は何もできない。時計と競争してこいつを負かすことはなかなかできませんけどね。
時々は勝つようなことがありますよ。人間は「頭」があるからです。
時計のリズムは一定だが、人間は「この仕事をこの時間までに仕上げるんだと腹を決めれば、グッと時間を短縮することができる。だから仕事を速くしようと思えば目標時間を決め、それに対して集中攻撃を掛けることです。そうすれば一分速くなるか五分速くなるか、いくらかでも速くなるんです。そうやって時計に逆ねじを食らわせるような意気込みで仕事に向かうことが大切です。
(『致知』2008年1月号より)
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とあった。
時計と競争して仕事をするなど、まるで新入社員が先輩から教わるようなこと。それを人間国宝になっても実行しておられることに驚嘆した。上手にやるのは当たり前、一分でも一秒でも速くやるという精神はいつも大切だ。
私たちもその精神をもつためにはどうすれば良いか。
私はふたつのことを思いついた。ひとつは使用時間の実態調査。
何に何時間費やしているかを分単位で記録し、重要なものについては時間短縮を試みること。
もうひとつは昨年の自分の記録を塗りかえること。
昨年一ヶ月で 100万円売ったのであれば、今年は一ヶ月で 120万円売ろうと考えること。記録を塗りかえようと知恵を使うことが仕事の革新につながる。
ともあれ、人間国宝が大切にしている仕事術が、新入社員教育のテーマと同じであることに感銘した次第。