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勝負は“見通しの精度”

「都銀のZ銀行なんてひどいもんだよ、武沢さん。お金を貸す気などまったく持ち合わせていないんだもの。おひざ元のこの地区で一番嫌われている銀行かもしれないよ。メインを信用金庫に変えようと思ってるよ。」となげく某社長。こんなボヤキは聞き飽きた。

そこで翌日、そのZ銀行の中堅幹部にお会いして実情を尋ねると、意外にもこんな答えがかえってきた。

「たしかに融資はシビアになってきていますよ。リスクプレミアムと言われる、リスクに見合う金利設定などを考えると、どうしても貸出し金利を高くもっていかざるを得ない。そうでないなら、融資以外の収益を拡大せざるを得ない。それでも、企業融資が基本であるのは昔も今も変わりませんよ。それでこそバンカーだ、という自覚をいつも忘れていないつもりです。事実、私が担当している内装工事業のY社さんなどは、この一年間で無担保融資枠をなんと5倍の5,000万にしましたよ。このご時世に立派なものでしょ。」と語る。

Y社は設立4年目で正社員数名という会社だ。昨年の今ごろ、無担保融資枠で1,000万あったそうだ。ところが、Y社長の行った毎月の対応が銀行評価をグングン跳ね上げたという。何をやったのだろうか?

もちろん接待攻勢ではない。

Z銀行の幹部いわく、

「武沢さん、もしすべての企業がY社のようであれば、銀行と企業の信頼関係はもっと強固なものになっているでしょうね。Y社が行ってくれたことというのは『中小企業白書2002年版』にも載っていることですよ。もちろん、白書の例はY社さんではありませんが、やったことは同じです。」

さっそく調べてみると、次のような記事を発見した。要約してお届けしよう。

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A社(東京都、情報サービス業、従業員220名、資本金5,000万円)は、取引銀行に業況報告を行うことにより信頼関係を形成 し、各行より1億円単位で無担保借入を可能としている会社である。

A社は12年前に現社長が設立した会社。売上規模は20億円程度で毎期利益をあげてきた。ソフト開発は、長い場合で1年程度 にもおよぶため、資本金だけで運転資金をまかなうことは厳しい。そこで、設立二年目に売掛金の回収を見合いに無担保で短期 資金を借り入れるのに成功。それ以来、現金以外に担保になる資産をもたないA社は、おもに都市銀行から運転資金の大部分を 無担保にて調達している。

A社の銀行取引担当者は、以下のように語る。「運転資金については、まったくの無担保というわけではなく、ある種の預金質 権設定の要請があれば応じるつもりである。最近、ある都市銀行は、『無担保なので金利はしっかり取るが、その代わり条件は 付けないので幾らでも使ってくれ』と言ってきている。当社でも、それは望ましいことだと思っている。
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『中小企業白書2002年版』(中小企業庁編)154ページより

企業経営は、キャッシュフロー重視でいくべきだ。現金収支がいつも「+」であることが大前提である。だが、一時的に運転資金が不足する時期がつきものでもある。それを短期借入金でまかなうわけだが、銀行との信頼関係がないと、冒頭でなげいていた社長のようにスムーズに借り入れできない。
では、白書にあるA社が無担保での借入を可能にできたのはなぜなのか。引き続き白書を読んでみよう。

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理由は二つあげられる。一つめは銀行側の要因であり、二つめはA社側の要因である。銀行側の要因としては、その銀行取引担 当者は、「最近では、銀行の方でも必ずしも担保にとらわれることなく企業の内容をみて融資するようになってきていることが 大きな理由。それに他行が無担保で貸出ししているので当行も貸出す、という意識がある」という。
A社側の要因としては、業況報告により銀行との間に緊密な信頼関係を築いていることがポイントである。A社は収支報告と資 金繰りに加えて3ヶ月、6ヶ月先の業況見通しを毎月取引各行ごとに提出している。これだけなら多くの会社で行っていること と同じだが、A社が違う点は、その業況見通しと実績とを比較することにより、見通しについての事後フォローを行うことであ る。この実績が、100%予測通りにならないとしても、80~90%達成されているので、銀行側もA社の資料を信用し、信 頼関係が形成されている。したがってA社としてはいかに正確な業況見通しを策定し、それを達成するかどうかという点を最重 要課題としている。
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経営にある種の緊張感を保持しよう。そのために、銀行などの第三者を利用して業況見通しや実績表をつくり、その精度を上げようと努力することは、実に理にかなった方法だ。