●20日に一冊のペースで小説を書き続け、ついた異名が「月刊佐伯」。
あの児玉清さんも友人にすすめていたという佐伯泰英の時代小説シリーズは面白くて大人気のようだ。どの書店の文庫コーナーにも必ずある。今回、私もようやく縁あって一冊手に入れた。
●さっそくネットで調べてみたら、佐伯氏の経歴が大いにふるっている。氏の人生そのものが一冊の小説になるに違いない。
1942年、北九州市生まれ。新聞販売店を営む家庭にうまれた。家業を継ぐ予定をしていたが、途中で変更し、芸術を志す。
1971年より1974年までスペインに滞在。闘牛士を追う写真家として活動するかたわら、スペインと闘牛を題材にしたノンフィクションや小説を発表する。だがヒットに恵まれず、1998年頃には写真も執筆も仕事が激減していた。
●当時、かろうじて続いていた「犯罪通訳官アンナ」シリーズ(文庫化にあたり「警視庁国際捜査班」シリーズと改題)も打ち切りが決まった。
●佐伯、すでに50歳代後半、還暦まであと4年だった。
作家廃業の危機。その当時の編集者が気の毒がって、時代小説か官能小説への転身を勧めた。当時の佐伯にとって、それは実質上の「廃業勧告」でもあったが、簡単にあきらめるわけにはいかない。作家をつづけること以外にご飯が食べられる方法が思いつかなかったのかもしれない。
●じゃあ時代小説を書こう、と転身を決めた。
翌1999年(57歳)、初の書き下ろし時代小説『瑠璃の寺』(文庫化の際には『悲愁の剣』に改題)を角川春樹事務所より発表。これは、半ば版元に押しつける形で、出版されるかどうかさえ分からぬまま売り込んだ作品だった。だが、四つ葉のクローバーはひと目につかない日陰に潜んでいることが多い。この作品が、発売 1週間で重版がかかるヒットとなる。それまで全著作が初版で終わってきた佐伯にとって、夢のような出来事だった。
●それ以後、「密命」シリーズをはじめ、数々の人気シリーズを抱える売れっ子作家になる。
2007年のNHK 木曜時代劇『陽炎の辻~居眠り磐音 江戸双紙~』などテレビドラマ化されたり、漫画化された作品もある。
不思議なもので、時代小説のヒットを受け、それ以前の売れなかった作品も復刊しているという。
●自らを「職人作家」と表現し、元・写真家の腕前をいかんなく発揮した写真ブログもやっている。当年とって70歳、こんな人生もあるんだと教えられた気分である。
★佐伯泰英ウェブサイト → http://www.saeki-bunko.jp/index.html