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水五訓

江田島の海軍操練所あとを訪れたことがある。今は海上自衛隊幹部候補生学校、第一術科学校となっている。その資料館で『五省』を見つけた。明治15年当時の同校校長・松下元少将が定めたもので、内容は次のようなものである。

一.至誠に悖る(もとる)なかりしか
一.言行に恥ずるなかりしか
一.気力に欠くるなかりしか
一.努力に憾み(うらみ)なかりしか
一.不精(ぶしょう)に亘(わた)るなかりしか

この五つを当時の幹部候補生は毎日ふり返った。いまでいうデイリーレビューである。私は毎週行う WR(ウィークリーレビュー)で目標と実績の誤差を確認するだけでなく、この『五省』も自らに問うている。実績確認よりもむしろ『五省』の方が本質的なレビューだと思っている。

そんなある日、東京セミナーの最中にこんなやりとりがあった。

「武沢先生、歴史がお好きでしたよね」と山形から参加してくれた S 工場長が質問した。
「はい、大好きです。幕末と戦国は特に好きですね」
「黒田官兵衛が隠居して如水(じょすい)と名乗るようになりましたが、そのいわれはご存知ですか?」
「如水の意味ですか?、さあ、水のように自然のままでありたいという願いですかね」
「少し近いですが、正確ではありません。官兵衛が書き残した教訓を『水五訓』(みずごくん)といいますが、官兵衛自身が水から学んでいたことから如水と名づけたようです」
「なるほど」
「私も工場を預かる立場として、この『水五訓』を自分のリーダー像に据えています」
「水五訓、どんな内容ですか?」

S 工場長が教えてくれた「水五訓」がこちら。
・・・
一.自ら活動して他を動かしむるは水なり
二.常に己の進路を求めて止まざるは水なり
三.障害にあい激しくその勢力を百倍し得るは水なり
四.自ら潔うして他の汚れを洗い清濁併せ容るるは水なり
五.洋々として大洋を充たし発しては蒸気となり雲となり雨となり雪と変じ霰(あられ)と化し凝(ぎょう)しては玲瓏(れ
いろう)たる鏡となりたえるも其(その)性を失はざるは水なり
・・・

「一」は、水のように主体的に動けという教え。自分が動くことで周囲を動かすのだ。
「二」の教えは「水は自ら止まらない」ということ。道を求めて止まらない水の姿勢を自分の生きざまに反映させようという
ことだ。
「三」は水のエネルギーの性質を説いている。障害や抵抗にあうほどに力を増し、勢力を強める。諦めたりひるんだりしな
い。そうした水の性質から学ぼうというわけだ。
「四」が伝えていることは水は汚れを浄化する性質を持っているということ。私たちも相手の汚れやけがれを浄化できる人間
でありたい。
「五」では、水が温度や器の形によって次々と形を変え、役割を変える。だが、本質は何も変わっていない。私たちもそうし
た自然体の人生を送りたいものである。

なるほど、すばらしい教えだと感心した。企業理念や社訓などにも応用可能な知恵であると思うがいかがだろう。