●出社前にスターバックスに立ち寄った。
レジ周りの雰囲気がいつもと微妙にちがう。
よくみたら、「本日のコーヒー」のメニュー表示が、「ブロンド」、「レギュラー」、「ダーク」の3ローストの中から選べるようになっていた。
●毎日トールサイズのコーヒーを 2杯飲み干す私にとって、やや味が濃すぎると感じることがあったので、浅煎りコーヒーの登場はありがたい。迷わずブロンドローストにしたが、なかなかいける。
●担当してくれたスタバのスタッフは現在、就活中らしい。出版社一本に的を絞っているという。是非とも彼女の夢が実現し、良い本を作ってもらいたい。
●本好きなスタッフを励まして店の外に出た。そのあとも本のことを考えながら会社に向かっていたら、ふと30年前のある出来事を思い出した。本にまつわる思い出である。
●当時、私はスポーツ用品店で店長をやっていた。直接私が接客を担当する常連客が何人かいたが、その中に江戸川さん(仮名)というゴルフと本とおしゃべりが大好きな男性がいた。私より少し年が上だったように思う。
「小さい出版社で働いている」という江戸川さんは、平日の昼間にふらりと店にやって来ては世間話をして帰る。ときどき、申し訳程度にゴルフボール(とはいっても格安のロストボール)やティーを買ってくれたが、クラブやウエアなど値が張るものは一度も買わなかったはずだ。
●あるとき、江戸川さんは私に二冊の本を強くすすめた。
一冊は、日本マクドナルドの創業者・藤田田氏が書いた『ユダヤの商法』。もう一冊はモスバーガーの創業者・櫻田慧氏が書いた『若かったらこんな商売をしてみないか─成功率 93%モスバーガー・チェーンの秘密』という本だった。
●すぐに買って読んだ。
「へ~、そんなモノの見方があったんだ!」と発想の斬新さに驚いたのが藤田氏の本だった。だが、当時の私には少々アクがきつすぎる本で、何かすぐに行動しようとまでは思わなかった。
●一方の櫻田氏の本には感激した。私にあと少しの資金と勇気が備わっていたらモスの世界に本当に飛び込んでいただろう。若者をモティベートしてくれる感動的な内容だった。
●私以上に感動していたのは江戸川さんの方だった。
「武沢君、僕はひと旗あげるつもりだ。いつまでもサラリーマンをやっているつもりはない」
「なるほど、そうですか。江戸川さん、何でひと旗あげるのですか?」
「その本にも書いてあるだろう。女と口を狙えって」
「ええ」
「そのどっちかだよ」
●『ユダヤの商法』『若かったらこんな商売・・・』の二冊で目が覚めた若者の多くが飲食の世界に飛び込んだことだろう。現役の経営者が若者を鼓舞する本を書く。いまでもそういう本がたくさんあるが、その先駆けだった。
本との出会いをチャンスとしてとらえ、行動に移せるかどうか。一瞬の判断が人生を大きく左右するのだが、それに私たちは気づいていないことが多い。
●あれから30年たつ。
江戸川さんは今もサラリーマンをしている。
あと何年かで65歳定年を迎えると今年の年賀状に書いてあった。当時彼が勤めていた出版社は倒産し、起業するチャンスはあったのだが、結局は別の出版社に再就職した。いまは副編集長として働いているそうだ。
●彼ももう若くはないが、『若くはないがこんな商売をしてみないか』という本が出たら、今度こそは飛びついてもらいたい。気力と体力が残っていさえすれば、時間はまだ充分にあるのだから。
●その反対に5年ほど前、こんな女性もいた。
彼女は私の友人の友人で20歳代半ばだったろうか。友人とご飯を食べるとき、時々彼女も同席された。あるとき、彼女が転職すると言い出した。
いまでも立派なエリートサラリーマンなのに、今度はどんな会社に行くの?と聞いてみたら、「ある社長からお誘いを受けたのでそちらの会社に行きます。社名は『グリー』と言います」という。
●「グリー?ああ、あのミクシィのような会社ですね」と失礼なことを言ってしまったが、彼女はニコニコしていた。
どうしてエリート会社につとめる彼女が、業界二番手か三番手の企業に入るのだろう?と違和感のようなものを感じたことを覚えている。
その頃のグリーは年商10億円で、営業利益は2年連続で赤字を出している会社だったからだ。
●だが、あれからわずか5年。グリーは化けた。
年商は 165倍の1,650億円になり、営業利益は売上の 52%にもあたる850 億円をたたき出す巨大企業になった。文字通り、世界の投資家が注目する会社に大変貌を遂げたのだ。彼女が入社したからそうなったわけではないだろうが、グリー・ドリームをつかんだはずだ。
●グリー創業者の田中良和社長の持株資産を今日の株価で評価したら2,500億円ほどになった。それ以外に毎年の配当金だけでも 15億円になるし、その金額はグイグイ増えそうだ。毎月の役員報酬なんてこの際、いくらでもいいほどに大成功された。しかも、成功はまだ始まったばかりなのかもしれない。
●A さんが転職したので、私もグリーのことをずっとウォッチしていたが、たった5年でこんなに化ける会社も珍しい。A さんがグリーで今、どんな仕事をされているのか知らないが、以前のエリートサラリーマンのときよりはるかに大きな夢をみていることだろう。
●江戸川さんにとっての『ユダヤの商法』『若かったらこんな商売』、そして A さんにとってのグリーへの転職、人生を変える出会いやチャンスはいたるところに転がっている。だが、それを活かせるかどうかは、常日ごろからこちらが養っておく瞬発力と判断力だ。自分の直感や判断を信じられるような自分を作っておく必要があるのだ。
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【編集後記】
◆今日は本気講座 名古屋1期生の二回目の講座を開催します。
今日のテーマは「理念と戦略」。経営理念や経営戦略に高収益・高成長・好財務・好待遇というテーマをどう反映させるべきかを研究します。