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幸福のバケツ

●人を傷つけるのは良くないし、自分を傷つけることも良くない。

まず、どんな時に人が傷つくのかを知っておこう。暴言や暴力だけが人を傷つけることではない。無視されることでも人は傷つくし、もっとひどい傷つけ方もある。それを知り尽くした一部の人たちが、それを戦争捕虜に悪用した。

●史上、もっともひどい拷問は朝鮮戦争(1950年 – 1953 休戦)の後、北朝鮮が行ったアメリカ兵捕虜に対するものかもしれない。
それは、「マラズマス」とよばれる「あきらめ病」患者を作る作戦だ。

『心の中の幸福のバケツ』(トム・ラス、ドナルド・クリフトン著、日本経済新聞出版社)にその情報が詳しいが、ポイントを抜粋して以下にご紹介しよう。

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アメリカ兵が収容されていた北朝鮮キャンプは一般的な基準からいって、とくに残酷でも特殊でもなかった。食料と水は十分に与えられ、居住スペースも確保されていた。
戦時中によく行われていた肉体的な拷問もほとんどなかった。しかし、多くのアメリカ人捕虜がこの施設で命を落とし(落命率38%。これは、アメリカ陸軍史上最も高い)、精神的にも肉体的にも完全に降伏してしまった。

施設内ではたえず仲間同士のケンカがおこなわれ、互いに反発して、北朝鮮側につく者すらいた。
解放された兵士は日本の赤十字に保護されたが、そこから家族に電話をかける者はほとんどいなかった。

マラズマス・・・「抵抗するのをやめ、なすがままになること」

北朝鮮の心理作戦によって捕虜たちは、人間関係から得られる心の支えをすべて奪われた。そのためにとられたのは次の四つの作戦だった。

1.密告させる
2.自己批判させる
3.上官や祖国に対する忠誠心を打ち砕く
4.心の支えになるものをことごとく奪う

<密告させる>

たとえば、「仲間が規則を破っている」というようなことを密告させる。タバコを与えるなどのご褒美を用意して密告を奨励した。
規則を破った者を罰するのが目的ではなく、密告によって互いの信頼関係を壊し、捕虜同士の関係が疑心暗鬼になるよう仕向けることが狙いであった。

<自己批判させる>

捕虜を10人程度の小グループに分け、グループメンバーの前に立って、自分がどんな悪いことをしたか、どんな正しい行いができなかったかを洗いざらい告白しなければならない。

告白する相手が北朝鮮側ではなく、仲間であることが卑劣な点だ。こうして、仲間に対する信頼、尊敬、連帯などが徐々にうすれ、やがて深刻に蝕まれていった。

<上官や祖国に対する忠誠心を打ち砕く>

田んぼの水は危ないから飲まないように、と注意した大佐にむかってひとりの兵士がこう言った。

「あんたは、もう大佐でもなんでもない。俺とおなじ、ただの捕虜だ」

数日後、この兵士は水を飲んだおかげで赤痢にかかり落命した。

<心の支えになるものをことごとく奪う>

家族からの激励の手紙などは一切見せない。その反対に、親や兄弟が亡くなったとか、夫の復員をあきらめて妻が再婚するといった悪い内容の手紙はすぐに手渡す。
請求書、督促状なども速やかに手渡し、心の支えになる場所は祖国にも家族にもどこにもない。神すら信じることができない、という暗示をかけていく。生きる目的を見失った兵士は無気力になり、ついには壊れ、勝手に落命していく。

・・・

●いかがだろう。大変痛ましい話だが、決して他人事とも思えない。

「マラズマス」、生きる気力をなくすことはいとも簡単で、特別な施設に入る必要などない。普段、我々はそれに近いことをすでにやっているのだ。

・密告する   (人の落ち度をさがす)
・自己批判する (自分の落ち度や欠点ばかり見る)
・仲間や会社の悪い点を見る (だからうちはダメなんだ)
・督促状や苦情メールばかりを見る (私は人並み以下、と確認する)

それらのことをやってゆけば、誰だって「マラズマス」になってしまうだろう。

●アメリカ兵の命を無駄にしないために、この数十年、学者たちは研究を積み重ねた。それは「マラズマス」にかからない知恵という意味だけでなく、応用すれば人生や仕事が大いにはかどるような心の活用法である。

●外部から入るネガティブなものを一方的に遮断することはできない。

それにかわって我々ができることはポジティブなものを積極的に取り入れていくことだ。
どういった内容のポジティブ情報をどのような方法で取り入れていけば良いのかが『心のなかの幸福のバケツ』という本の主題である。

明日は、そちらについて考えてみたい。

<続く>

★『心の中の幸福のバケツ』
→ http://e-comon.co.jp/pv.php?lid=3022

※本書の情報提供者、小林里江さん。ありがとうございます!
たしかに良い本ですね。