例年より三日早く、昨日、札幌で初雪が降った。
昔、スポーツ用品店で働いていたせいか、この季節になると各地の降雪情報が気になる。なにしろ当時は、スポーツショップの売上げの圧倒的首位がスキー用品で、年間売上げの半分以上を12月~2月の三ヶ月だけで作っていた。その売上げは降雪状況によって大きく左右されることから、典型的な”水商売”ならぬ“雪商売”でもあったのだ。それにしても、30年経った今でも雪の話題が気になるとは。
私はスキーの滑り方と会社経営は似ていると考えている。スキーの初心者が取り組む滑り方は「プルークボーゲン」というもの。板を八の字にしたまま斜面を斜めに滑り降りターンをくり返す。そのターンを成功させるために指導者は「谷足荷重」(または「外足荷重」ともいう)の大切さを教える。それは、ターンするときに身体の重心を谷側の足に乗せることで身体のバランスを維持したままきれいにターンが決まるからだ。
ところが初心者は恐くて出来ない。谷側に体重をかけたら、そのまま斜面の下まで転がっていくように感じ、本能的に山側の足に重心を置きたがるのだ。その癖が直らないかぎりスキーはうまくならない。理屈では分かっていても谷足に重心を移動することは身体が怖がる。したがって最初はなるべくフラットに近い場所で練習し、徐々に傾斜角度を強めていく。
経営においても谷足荷重が必要だ。私腹を肥やす山足荷重の経営からいち早く脱し、メインを谷足(会社を肥やす)に掛けるのだ。個人の利益よりも会社の利益を重んじると、会社が強くたくましくなっていく。そうすれば、社長が路頭に迷うことはなくなる。ところが会社がまだ脆弱な段階から個人の利益を重んじた経営をやっていたら、いつまでたっても会社は太らない。その結果、銀行も社員も顧客も離れていき、社長が路頭に迷うという皮肉な結果が待ち受ける。
ただし、早合点してはいけない。高等戦略が必要なのだ。
「そうか!社長の給料を抑えてでも会社を儲けさせれば良いのだな」というのは大いなる早とちりだろう。経営の第一ステージにおいては何よりも資金流出を最少に食い止めたい。したがって役員報酬を10万円にして法人税を何百万円も払うような愚行は避けたい。
経営の第一ステージのクリア条件は「資金力を高めること」としたい。具体的には、借入金を除いた自己資金を5,000万円にすることを第一ステージの財務戦略目標に掲げる。そうすると、役員報酬を月額100万円にして法人税は10万円にしたほうが良い。ただしそれだけでは社長の生活が楽になるだけのことで、会社は内部留保できず、自己資本比率も増えなければ現預金も増えないことになる。したがって、毎月の社長の給料100万のうち70万円を「預り金」として会社が預かり、年に一度の決算期に一年分の預り金(この場合は840万円)を資本金に組みこむ。そうすれば法人税は10万円のままで自己資本比率は急上昇し、会社の現預金も増える。
「そんなことをしたら社長の源泉所得税と社会保険料がバカになりませんよ。個人と会社のトータル支出で計算しないと損をしますよ」と知人の税理士が言っていた。彼のスタンスこそが山足荷重の考え方なのである。「どうすれば一番トクか」と考えることがすでに山足荷重の人たちの発想なのだ。
そうではなく、「どうすれば会社が一番トクか」を考えるのである。それが谷足荷重の発想なのだ。100万円の役員報酬のうち70万円を会社に預けたら30万円しか残らない。そこから源泉所得税に社会保険を天引きしたら手取りはさらに少なくなる。当然、家族の理解と協力も必要になる。社長として遊ぶお金や交際に使えるお金はほとんどなくなる。そこまでしてでも会社を強くさせることに取り組んだ時に生まれる本気さや執念のようなものが経営者本人と社員を本気にさせる。それを一生続けろとはいわない。会社が第一ステージをクリアするまでの間で充分なのだ。通常、3年から5年ぐらいだろうか。
それを実践されたのがNBC コンサルタンツの野呂敏彦社長で、氏はそれを7年間続けられた。新婚カップルならいざ知らず、40歳を過ぎてから税理士資格を取られ、それから30万円の生活を始められたのだ。生活費以外はすべて増資に回す。遊ぼうにもそのお金がないからおのずと全時間、経営に注いだ。その7年間のおかげで今日の同社がある。
「こうやれば会社は絶対つぶれない」という体験的成果を顧問先に教え、顧問先も強くなった。そして今では「日本から倒産をなくす」ということを真剣に考え、それをセミナーやコンピュータソフトで説いておられるのだ。
経営の段階をステージに分け、ステージごとに明確な目的・目標をもとう。当然、目的に応じて打つ手はかわる。第一ステージでは有効だった作戦が第二ステージでは禁じ手になることもある。そのあたりをよく整理して経営にあたろう。
経営ステージの考え方、作り方は明日に譲るが、今日の結論は経営の軸足を谷側(会社側)に置くことが自分を守る鍵である、ということ。
<明日につづく>