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国士無双

●気持ちを大きく大きくもとう。

ややもすれば現実的な対処に追われて小さくまとまってしまいがち自分を奮い起こし、殻をやぶり、気宇壮大になろう。

そのためには、歴史を読むのが一番よい。紀元前100年ごろに、司馬遷(しばせん)によって書かれた『史記』には数々の人物が登場する。
そして、名場面で名ゼリフを吐き、それを読んだ後々の人物に絶大な影響をあたえているのだが、今日はその中から三つほどご紹介してみたい。

●1.『抜山蓋世』(ばつざん がいせい)

出典:項羽が最期に詠んだ詩
「力 山を抜き 気 世を蓋う(おおう)」より

私の力は山を抜くほどであり、私の気力はこの世を蓋う(おおう)ほど充実していると、自らのスケールの大きさを誇張した。

解説:この詩を詠んだ直後に名将・項羽もついに武運尽きる。敵将・劉邦に打たれるのだが、この詩が残った。

人の上に立つもののあるべき姿を「抜山蓋世」と見事に詠んだ項羽はすぐれたリーダーであっただけでなく、すぐれた詩人でもあった。私も自分の白扇
に筆文字で「抜山蓋世」と書いてある。

●2.『国士無双』(こくし むそう)

出典:「なぜわざわざ逃げた韓信を呼び戻しに行ったのか?今ま¥で一度も逃げた人材を追わなかったのに」国王にそう聞かれた将軍は、次のように答えた。

「諸将は、また得ることができます。しかし韓信は国士無双。すなわち天下にまたとない人物です。 王(劉邦)が、この地を領有するだけで満足ならば
韓信は必要ありません。しかし、今後、天下を争うならば韓信を除いて共に軍略を練ることができる者はおりません」

のちになって韓信の働きで劉邦は勝利し中国を平定する。
「漢」の時代を作ったわけだが、その時にできた「漢字」を我々は毎日使っているわけだから、歴史はずっとつながっていることを実感する。

解説:国中に並ぶ者がひとりもいない得難い人物のことを国士無双という。麻雀の役名にも使われているが、国士無双の人材をかかえている会社がやっぱり強
い。そんな人材を養える器の将でなければならない。

●3.『嚢中(のうちゅう)の錐(きり)』

出典:春秋戦国時代、 趙の大臣 平原君が楚(そ)と同盟を結ぶために交渉に行くことになった。
平原君は、数千ともいわれる食客を抱えていたが、その中から従者を20人選んで連れていくことにした。
19人まではすぐに決まったものの、 あと一人ふさわしい者が決まらない。

すると、食客のひとり「毛遂」(もうすい)が、自ら随行を名乗り出た。
だが、平原君は毛遂を認めていなかったためこう断った。
「先生は、私の門下となられてから何年になりますか?」「3年になります」と毛遂。
「先生、そもそも賢人が世にいるのは、例えて言うならば、嚢(のう、袋のこと)の中にある錐(きり)のようなものです。鋭い錐の先が袋を突いて現
れるように、その頭角がすぐに現れるはずなのです。失礼ながら先生は、3年も私の門下にいるのに、良いうわさひとつ耳にしません。 つまり、先生
にはこれといった才能がないのです。だから先生をお連れすることはできません」

すると毛遂は、「私は、今日、袋の中に入れていただきたいのです。 私を早く袋に入れてくだされば、とっくに飛び出して柄まで外に抜け出ていたで
しょう」

平原君もついに折れ、随行を認めることにした。
随行の道中で、毛遂は他の19人の賢者と議論し、ことごとく心服させていく。やがて楚の国王と平原君の交渉が難航していると見るや、自ら乗り出し
て両国の同盟を成功させる働きをする。

この出来事により、名宰相・平原君をもってして、「私は、これまで数え切れないほどの人物鑑定をし、その鑑定眼には自信があった。しかし、毛遂先
生を見損なってしまった。もう2度と人物鑑定はしない」と言わせしめたのである。

解説:無名のすぐれた人物というものは、袋の中の錐のようなもので、いつかはその穂先が突き出て、その才能が現れるもの。ずっと袋の中に居られるもので
はない、という意味。
「チャンスがない」と嘆き、功を焦って軽はずみな行動をする必要はない。

また、このエピソードからもうひとつの解釈を加えるなら「錐は袋の中に入れてやらなと袋を破りようがない」と理解することもできそうだ。