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理念不在がどうした!

理念や方針がない会社ではたらく社員は気の毒だ。毎朝、ボスの顔色をみながら、「今日はハッピーな一日になりそう」とか、「ダメだ、今日は暗いぞ」などと推しはかる。このように、社長の気分次第で会社の雰囲気がコロコロ変わることほど非人間的な組織はない。

大切なのは、紙に書かれた理念やビジョン、方針といったものに向かって、社長も社員も同じ方向を向いて挑戦する組織である。組織が、たった一人の人間の影であってはならないのだ。

したがって、結論。経営理念や経営方針を文書にして発表しましょう。それをくり返して、組織のDNAになるまで浸透させましょう、ということになる。だが、今日はそうしたオーソドックスな話ではなく、理念や哲学がなくても構わない段階がある、というお話しを申し上げたい。

とある日、二人の社長の会話。

A:「Bさんの会社がうまくいっていないのは、経営理念や哲学が確立されていないからだと思うな。だからいつまでたっても低   空飛行しかできないんだよ。」
B:「たしかに理念は文書にしていないし、業績も低空飛行だ。しかし、それは経営理念不在のせいだとは思えない。理念でメシ   が喰えるほど、いまの世の中は甘くない。いや、昔だってそうだったはずだ。」
A:「いや、社長であるあなたがいつも揺れ動いているのを見て、社員も浮き足立っているとオレは思う。事実、君の会社は離職   率も高いのだろ。それは、あなたの理念・哲学がないからだよ。従って共有すべき価値観が社内にないのさ。武沢さんに推   薦された、『ビジョナリーカンパニー』(日経BP社)をあなたは読んでないのじゃない。どう思いますか、武沢さん     は。」

こうした会話、けっこうある。あなたは何と答えるだろうか。私は次のように申し上げた。

武:「えっ、ボクですか。う~む、よくわからない。それだけの情報だけでBさんの会社の問題を特定できないと思いますよ。経   営理念を文書にするのは大切ですが、好調・不調の原因すべてを理念のせいにするのも無理があると思う。」
A:「え~、武沢さんらしくない。いつもはもっと理念の大事さを強調するじゃないですか。どうしてトーンダウンしたのです    か?」
武:「トーンダウンなんかじゃない。段階があるということ。今、会社を作ったばかりのヨチヨチ歩きで明日の資金繰りにすら不   安があるような時は、まずその状態から脱出することに全力を注ぐべきでしょう。その段階で理念なんか必要ない。また、   赤字決算をしていてトンネルの出口が見えないときにも理念は即効性を持たない。理念が万能薬だと思ってはいけない。」
A:「おっかしいなぁ。そんなことが『ビジョナリーカンパニー』に書いてなかったように思うけどな。」
武:「その本に書いてあってもなくても構わない。ご自分で考えてみて下さいよ。」

さっそくその夜、自宅で『ビジョナリーカンパニー』をひもといてみた。すると、なんと、ズバリ次のような箇所があるではないか。さっそく引用しよう。

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ビジョナリーカンパニーのすべてが、設立当初から基本理念をしっかりした文書にしていたわけではない。そうした企業はごく一部である。理念を文書にしたのは多くの場合、設立から十年前後たったころだが、おおむね大企業に成長する前である。ビジョナリーカンパニーのほとんどが、設立当初は会社を軌道に乗せ、成功させるために必死だった。はっきりした理念を掲げるようになったのは、会社が発展したからだ。だから、基本理念を文書にしていなくても問題ない。しかし、早ければ早いほどよい。この本を読む時間があるのだから、読書をしばらく中断して、いますぐ基本理念を書き上げるべきだ。
(『ビジョナリーカンパニー』日経BP社刊 129ページより抜粋)
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会社のレベルを次の四つに分類して考えよう。

・第一レベル 「悪い」
・第二レベル 「普通」
・第三レベル 「良い」
・第四レベル 「偉大」

「悪い」から「普通」へ、「普通」から「良い」の段階に移行するには、理念や哲学よりも、マーケティング力が問われる。いかにして利益を出し、現金収支を良くするかという格闘だ。この段階で理念は大きな意味を持たない。しかし、それ以上の「偉大」の高みに登ろうとしたとき、人材力・組織力・管理力などが醸し出す企業文化や、企業のブランドイメージが問われる。その段階で理念とその浸透力は極めて大切な要素になるのだ。いかがだろう。