●博多から上京してきたタレントの「タモリ」こと森田一義。その才能にほれ込んだ赤塚不二夫は、自らテレビ局に彼を売り込んだ。すっかり意気投合した二人は、連日酒席でギャグ作りにのめりこんだ。
●赤塚は、毎晩、編集者たちを引き連れ、新宿のバーでタモリと合流する。店内の噴水から、裸のタモリがイグアナの真似で出てくるなど、新しい遊びを考えるのが日課だった。
しかし・・・ある日、酒の勢いあまって、こんな事件が起きてしまう。
●最初は赤塚がタモリに絡み始めた。
「お前、売れ出したと思っていい気になるなよ」
突然のことにタモリも色をなし、「そんな言い方ないだろ、売れない漫画家に言われたくないよ」
うわぁ・・・。周囲は一瞬にして凍りついた。
●興奮した赤塚は、手にしていた水割りをタモリにぶっかけ、ついには取っ組み合いがはじまってしまった。周囲は必死に止めるが、すでに二人はエスカレートしている。
知り合いの編集者に命じてタモリを羽交い絞めにした赤塚は、タモリの鼻の穴に落花生を詰め込んだ。
怒り心頭のタモリも逆襲する。グリーンアスパラにマヨネーズをつけて赤塚の鼻に突っ込んだのだ。
●ここまで来てようやく周囲も気づきだした。これも二人が仕込んだ周到なギャグだったのだ。
周囲も彼らも腹の底から大笑いした。
『バカなことは本気でやらないとダメ』という赤塚の持論を裏付けるようなエピソードである。
●バカなことこそ本気でやる。
昔、中国に三人の僧がいた。名前は知られていない。
というのも、彼らは誰にも名前をいわず、どんなことにもまったく答えなかったからだ。いつしか彼らは単に、「三人の笑うお坊さん」とよばれるようになった。
●彼らのすることといえばいつも一緒だった。
村に入ると人が集まる市場に行く。そこに三人が立って笑いはじめる。
人びとは最初は不思議そうにみているが、だんだん集まってきて一緒になって笑う。腹の底から大笑いがおこり、それが伝染していく。
そんな光景を見に人びとが集まってくると、つられて一緒に笑いだし、やがて町全体が笑いの渦に巻きこまれていく。
彼らはそれだけが説法だった。説教することなく、この状況をつくるだけだった。
●やがて「三人の笑うお坊さん」は中国各地で有名になった。
「生きていることはすなわち笑いに他ならず、それ以外の何ものでもない」
あたかも宇宙の冗談の真理を理解したかのように笑うだけなのだが、人びとに大きな喜びをもたらし、敬愛されるようになった。
●しかし彼らも年を取った。ある村でとうとう一人が死んでしまった。
それを知った村人は別の期待をした。三人のうちの一人が死んだのだから残った二人は泣くだろう、と。泣く二人を見てみたかった。
ところが、行ってみてビックリした。
<明日につづく>