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続・「もしドラ」の成功と読み誤り

●お客の声を聞くのには自信が必要だ。

評判のレストランに行くと「お味の方はいかがですか?」とか「お気に召しましたか?」などと聞かれることがある。”聞かれる”というよりは、「おいしいでしょ」「気に入ったでしょ」と”確認される”にい。その微笑みの奥には大いなる自信がかくされていて、こちらも思わず「エクセレント!実に結構です」などと絶讃してしまう。

●その反対に、「うちの料理がわからん客はよそへ行ってくれ」と放言するお店がある。
そういうお店では、お客の声を聞く気がまったくないようだ。そんな頑固オヤジが好きな一部のファンで支えられているのだろうが、経営者としては大成していない。

●「事業の失敗を消費者のせいにしてはならない」とドラッカー。業績が伸びない理由を他人のせいにしているうちは業績改善が期待できないのだ。

●本が売れないのは誰のせいか。

出版マーケットが年々縮小している理由を「消費者の活字離れ」、「Webの普及」「携帯電話の発展」「電子書籍ブーム」など、外敵のせいにしているうちは本が売れる時代がやって来ない。「もしドラ」の作者・岩崎夏海氏はそう考えていた。

●岩崎氏とダイヤモンド社は議論した。

学生たちに向けてドラッカーの『マネジメント』の存在を伝えたい。
活字離れしている学生たちでも興味をもってもらえるよう、誰もが知っている高校野球を舞台にした青春小説仕立てにしたい。
この本の役目は、「ドラッカーの本と、その本の教えを必要としている学生マネージャーをつなげること」とした。

●次に「顧客は誰か」を考えた。

学生たちが買うよりは、その親や学校の先生のプレゼント需要を狙った。
本は読むものではなく贈るものでもある。贈ってうれしく、もらってうれしい本にしよう。プレゼントされて喜ばれるためには表紙のデザインが重要だ。アニメチックな表紙にして若者に受け入れられるようにしよう。
学生のマネージャーたちは企業と違って毎年変わっていく。卒業するから毎年新たに何十万という単位で新任マネージャーが誕生する。このマーケットはとてもデッカイ。

●岩崎氏とダイヤモンド社のチームはこの段階からすでに「200万部行く」と試算していた。事実、発売1年強で220万部を達成しているので、見事に彼らの目算は当たったようにみえる。

しかし、内実は誤算に満ちていた。

●「もしドラ」発売と同時にこの本に群がったのは学生たちの親や先生ではなくビジネスマンや経営者たちだった。

「あの表紙のイラスト、何とかならないか。電車で読むとき辱めを受けているようだ」とスーツ族から苦情が舞い込んだ。それは岩崎チームの大きな誤算だった。だが、うれしい誤算というべきかもしれない。

●予期せぬ層に支持されたため、販売計画にも狂いがでた。「200万部行く」とみていたのは10年がかりの話であって1年で達成されるなど思いもよらなかった。

●この春からもう一段、もう二段、「もしドラ」波が来そうだ。
この3月14日からNHK総合でアニメ版が放送予定だという。また、岩崎氏の師である秋元康氏も動いた。この6月に「AKB48」の前田敦子さん主演で映画化されることが決定したのだ。

●「ベストセラーは読まない」という意固地な考えは捨てて、私も今回はどこかで「もしドラ」に参戦せねばならないだろう。

★もしドラ → http://e-comon.co.jp/pv.php?lid=2871