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続・真実の瞬間

●昨日のつづき。

二日目は早朝から雪が降っていた。空気が湿っているのかボタ雪だが、かなりの雪で、しかも強風のせいで横なぐりになっている。
我々は早立ちするため、起きてすぐに風呂に向かった。特別にお願いして朝食時間を30分以上早めていただくことになっている。

●それにしても良い湯だ。それに雪のなかの露天風呂は風情があって最高だ。我々はついうっかり長風呂してしまったようだ。
予約してある朝食時刻をすでにまわっていたが、会場に着くと昨夜と同じ女性食事スタッフが笑顔で待っていてくれた。

●この日の午後から仕事があるので風呂上がりのビールは我慢した。
好物の温泉卵、山菜、魚の干物、のり、漬け物、味噌汁という朝食を堪能した。

かなり時間が押している。

部屋であわただしく着替えを済ませてフロントに向かう。バスの出発時刻があと10分後に迫っている。外の雪はさらに強くなっているようだ。

●フロントでは、ご主人とおぼしき年配男性が会計してくれた。我々は支払いを済ませ、こんなお願いをした。

「あの、こんな天気なのでバス停まで送っていただくことはできませんか?」
すると男性は即答した。「うちは送迎はやってませんので…。」
申し訳なさそうな言い方ではあったが、我々は「え、それで終わり?」
と思った。

●「・・・・・・」我々は黙るしかなかった。

「バス停はすぐ近いですし」とその男性。言い訳めいている。
「でも、来るときは10分ぐらいかかりましたが」とSさん。
「な~に、ここからは下り道ですから3分あればいけますよ」と男性。

やっぱり黙るしかないようだ。

●ちょうどそのとき、奥の部屋の外線電話が鳴った。
団体の予約のようでその男性は奥の電話のやりとりに聞き耳をたてていたが、我慢できなくなったのか、別のスタッフを呼んで奥の部屋に行ってしまった。

入れ替わりに別の男性があらわれた。

「これは、今回のお申し込みいただいた宿泊セットについている漬け物です」とビニール袋を渡してくれた。漬け物が一包み入っている。
「こちらは二人ですが」とSが言うと、「パックに付いてくるのは一つです」ということだった。

「Sさん僕は要りませんから。それより、時間がないので急ぎましょう!」

あと5分もない。

●「送迎車はありませんが、こんな天気ですから傘でバス停までお見送りします」とか「荷物をお持ちしましょう」などの言葉を期待したかったが、この様子ではムリだ。玄関には貸し出し用の傘があったが、ここまでくると「貸してください」と言う気も起きない。

●我々は雪のなか、前屈みになって自分の荷物をゴロゴロ引っぱり、バス停まで走った。ふと、ふり返ると玄関にはだれも立っていなかった。早立ち客だから、旅館もお見送りするだけの人の余裕がないのだろう。

●「Sさん、この道違うよ」と気づいたときには、バス停へ向かう道とは違う路地に入りこんでいた。近所の商店で道を聞き、大急ぎで引き返した。
息を切らせてバス停に着き、身体の雪を払いはじめたらバスが到着した。バスが少し遅れてくれたから助かったようだ。もしこれに乗り遅れたら、次のバスまで1時間10分待たねばならず、午後の仕事に支障がでるところだった。

●バスが出発する。「う~ん、無念だ~」と私。
二人とも放心状態でバスに揺られて30分、JR在来線の駅に着く。そこからターミナル駅まで1時間列車に揺られ、ターミナル駅から名古屋まで特急で3時間の電車旅。

雪もあがって青空がのぞきはじめた。ようやく我にかえったのか、堰を切ったように二人で旅館の悪口を言いあった。

●だが、旅情をこわしたくないので「悪口はこのへんでよしましょうか。こんどは良かった点を思いだしましょう」ということになり、お湯と食事スタッフの女性をほめた。気づいたら二人とも眠っていた。

●それにしても、ホテルでは当たり前のようにリクエストできるバスタオル交換。それが温泉旅館では難色を示された。
結局は交換してくれたものの、ひと悶着あるとは予想できなかった。

●旅館にしてみれば、「たかがバスタオル、されどバスタオル」なんだろうか?
私からみれば、たかがバスタオルの交換で客と対立するなどナンセンスだと思うのだが、ある読者がくれたメールでその謎解きがされていた。

・・・とても温泉が好きなNです。今回のメルマガを読んで、それはA温泉の「B旅館」ですね?(※メールではA・Bが実名で正解)

日本の旅館は、ホテルと違い、食事に融通が利かないところが大部分です。どうもこれは、ホテルが「部屋貸し」と「レストラン」という、サービスの組合せに対して、日本旅館は、玄関で靴を脱ぐことに象徴されるように、歴史的に「わが家への来客に対するおもてなし」に近い仕組みで成り立っているからです。
スタッフに悪気は無くても、たぶん、経営者ともども、「提供するものはこれ」という固定観念で凝り固まっているのでしょうね。
経営者が柔軟で、お客様中心に判断する人であれば、スタッフも自然とそうなるはずです。
先日テレビで、「浴衣使い放題」でロビーで何着でも自由に持っていける旅館が人気だと紹介されていました。
これは、お客様が「濡れたから新しいのを頂戴」というのを聞いた支配人かおかみさんが、「どうせなら気兼ねなく持っていけるように」と、ロビーに全サイズをどんと積むことにしたそうです。
見ていて「太っ腹だなあ。全国のホテル旅館の経営者が真似して欲しいものだ。」と思いました。
くだんの温泉教授は、「温泉旅館」のしきたり(習慣)を知り尽くしていて、決して「バスタオルをもう1枚ちょうだい」などという「無作法」(!?)な要望をしないのだと思います。
・・・

●なるほど、と思う。

ホテルと旅館のサービスに違いがあるのは理解できた。だからと言って、納得したわけではない。サービス向上のために経営者は、業界の先例を打破し、異業種に学んで新しいサービスを取り入れてほしい。
なぜなら、お客はよそで受けたすばらしいサービスを次も期待してしまうものだから。サービスは異種格闘技のようなものだ。

●さて、昨日、今日の二日間、我々が泊まった温泉旅館を批判するような格好になった。
だが、批判してウサを晴らすのが本意ではない。我々のほろ苦い経験を教訓にして、あなたの会社のサービスを見なおすきっかけになれば幸いだと願って書かせていただいた。

事実、こうして二日も原稿が書けた。それだけでもこの温泉旅館に感謝せねばならない。