●国の新しい権力者たちは、まず軍部と教育とマスコミを押さえる。
そうすることで権力を直接的にも間接的にも行使できるからだ。
それと同じように、会社の権力者についた若い社長は、権力を自分の手に収めようと、金と人事の力を持とうとするのは当然のことである。
●社員の昇進や昇格・降格、昇給・降給、栄転と左遷など、社員の生殺与奪の権限が自分にあることを誇示するのだが、中小企業の場合、特にそれがオーナー経営者の場合、露骨にやってはかえって反感を買う。それに、いつまでもそれをやるべきではない。権限誇示から上手に卒業しよう。
●さて、昨日のつづき。
「ダイエットと経費削減は一生のお友だち」というT社長の会社では、すでに来期(2011年12月決算)の黒字が確定しているという。
私の場合、今年もお盆が済んだのでそろそろ来年のことを考えようと思っていたのだが、T社長はすでに再来年以降のことを考えているそうだ。それくらい先のことを考えるためには、目先のことから解放される必要があるらしく、今まで大切にしてきた「部下の査定」とか、「資金繰り」とか、「営業同行」とか「部下指導」といった業務をすべて手放しつつあるという。
●T社長によれば「社長の業務をなくすことが社長の仕事だ」ということになる。全部社長の責任だと考えて、自分で抱えこんではいけないと警鐘を鳴らす。
むしろ、
・資金繰りは社員の仕事だ
・お金が足りないのは社員の責任である
・賞与の査定はもちろん社員の仕事。社長ができるはずがない。
と考えるようにしているという。
そして、本来やるべきこと、かねてよりやりたかったことをやるのが社長の仕事なのだという。
●T社長とは10年以上のおつきあいになるので、同社の絶好調時も絶不調時も知っている。むしろ時々襲いかかってくる不況や業界の激震、あるいは社内のちょっとしたトラブルや混乱のたびに、それが竹の節目になって次にすくすくと成長するきっかけになってきた。
はたからそれを見ていて、経営管理の標本室のようでこちらもずいぶん勉強になった。
●バブル崩壊時には経営判断を見誤って大型自社ビルを建て、資金繰りに困ったことがある。
「武沢さん、銀行からキャッシュフロー計画を出せと言われたが、それって何?」と聞かれたこともある。
分からないことはその後、猛勉強して分かるようにし、それが同社の強みになるまで研究された。やがて、パソコンを使った独自のキャッシュフローソフトを開発し、それが今も役立っている。
●また、受注見通しの甘さから失注がつづき、やがて業績見通しが大きく下振れするようになった。
そのときには、受注見通しの精度をあげる「星型管理法」を考案し、先行き予測が正確になった。こうした過去の苦い経験がすべて今、T社の強みや財産になっている。
●「資金繰りは社員の仕事だ」とT社長。
・一ヶ月に必要な固定費や利益、預貯金はいくらである
・支出はいつ、幾ら程度ある
・入金はいつ、幾ら程度ある
それらのデータは今月のものだけでなく、三か月先までほぼ正確に予想できる。それがエクセルファイルで社内公開されているので、営業責任者は毎週のミーティングでその表を使って議事を進める。
●入金を早めるためには納品を早めるしかない。業者への支払いを止めるとか、銀行から借りるという選択肢は彼らにはない。
だから、自分たちで資金繰りを良くするために何をすべきかと知恵をしぼる。
それが経営者育成の訓練にもなっているようだ。
●「実際、銀行と折衝することになれば私の出番」というT社長だが、もともとキャッシュフロー重視の経営をやっているので、現金不足になることはまずないという。そうした経済的な安心感も大きいが、それを上回るのが社員に対する信頼感。
●「資金繰計画表」はメールでT社長に毎週報告される。
それをチェックし、事細かにアドバイスするのかと思いきや、「社員を信頼しているので添付ファイルの計画表は見ない」という。
●社員から提出された資金繰表を見ないと聞いて、我々がそれをそのまま真似するのは危険だが、そこまで社員に任せきれるような経営をやりたいものである。
「○○は社員の仕事だ!」
あなたは○○に何を入れたいだろうか。そして、それを実現するには何が必要かを考えてみよう。