●「本の自炊」、つまり自分の本をPDFファイルにしてiPadに放りこんでおくと、紙の本とは違った感覚で読める。
「さあ、読むぞ」と構えることなく「気がついたら夢中に読んでいた」ということもある。
気軽にいつでもどこでも読めるので「これはいい」と思い、最近は自社の経営計画も仕事の資料もどんどんPDFにしはじめている。
●先週は、本屋で買ってきたばかりの本をすぐに自炊した。
印刷の香りがするほどの新刊本をすぐに断裁・解体するのは良心が痛むが、すぐにその本を古紙リサイクルに回したので、環境のためにはその方が良いのかもしれない。
●私が知るかぎり、一番豪勢な自炊本をもっている人はAさんだ。
氏は、一冊一万円以上もする中村天風師の豪華本を自炊していた。私が「太っ腹ですね」と言ったら、「本棚に飾っておくよりこうしておいた方が読めるし、ためにもなる」ということだった。たしかに、期的に反復したい本こそ自炊にふさわしいのかもしれない。
●また別の猛者は、amazonなどのネット書店で同じ本を2冊買うようになったという。
一冊は自宅やオフィスに届けてもらい、もう一冊を自炊専門業者に届ける。そして後日、業者からPDFファイルで受け取るのだそうだ。同じ本を紙と電子とで読み分けようという考えらしい。
●最近は紙の本より電子書籍での発売を先行したり、同時発売するケースも目立ってきた。
管直人首相の夫人・菅伸子氏は7月22日、『あなたが総理になって、いったい日本の何が変わるの』(幻冬舎)を書籍版と電子書籍版とで同時発売した。書籍は798円、電子書籍版は600円。
●講談社は京極夏彦氏の新刊小説『死ねばいいのに』を、iPad向けに電子書籍としても発売した。
紙の単行本は1785円で販売しているが、iPad用アプリは発売から2週間はキャンペーン価格として700円、それ以降は900円と約半額で販売する。冒頭の第1章については無料配信も行う。
また、携帯電話向けは、1章につき105円で配信する(6章構成で、第1章については無料配信)。
●村上龍氏も文芸誌「群像」に掲載した長編小説『歌うクジラ』を電子書籍化し、iPad向けアプリケーションとして提供している。
電子書籍ならではの仕組みとして、音楽家の坂本龍一氏が新たに書き下ろした楽曲や、アートワークが追加されている。
価格は1500円で、App Storeからダウンロードできる。
今後、文字だけでなく画像や動画・音楽などもミックスされた楽しい本がどんどん出てくるだろう。
●目新しいところでは、梅田望夫氏の最新著作『iPadがやってきたから、もう一度ウェブの話をしよう』がある。
iPadおよびiPhone向け電子書籍として発売され、App Storeからダウンロード可能で価格は450円。
この本は、著者の梅田氏とプログラマーの中島聡氏が、iPadの登場をきっかけに交わした往復書簡集をまとめたもの。
斬新なところは、電子書籍ならではの作りとして、購入後も両氏が読者からの質問に答えた内容が随時追加される仕組みとなっている。つまり、本を随時アップグレードしていくことになりそうなのだ。
こうした試みによって、作者と読者の距離がぐっと縮められる可能性もあり、注目している。
●本の作り方、売り方、読み方が大きく変わってきた。今後、さらに変化のスピードが加速するだろう。
「電子書籍」という言葉に出版業界は戦々恐々しているところもあるが、密かに乱世の英雄を目指している企業家も少なくない。
いずれにしろ、こうした新しい取り組みによって業界全体が活性化することは、読者として大いに結構なことだと思っている。