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燃やせ!鉄

●連休を利用して社長のための計画合宿を行った。

名古屋市内の研修所に集まった15名の社長の平均年齢は40歳くらい。
今回は女性も二人参加された。業種は製造業が過半数を占め、次いで不動産・住宅、介護、自動車関連サービス、製菓業など。

●景気回復の実感がない中小製造業。特に自動車関連は今年秋以降の受注見通しが全然立っていないところも多い。そんな社長のさし迫った問題は、

1.受注確保をどうやって進めるか
2.資金繰りや資金調達を検討するための詳細な数字計画

などである。

●だが、初日のオリエンテーションで「合宿参加の主目的は何ですか」と問いかけたのに対して15名中11名が「経営理念の確立」と回答された。

「理念が欲しい。自分の思いが詰まった個性的な経営理念を作りたい」という欲求は強いようだ。せっかくの合宿なのだから、これを機会に納得できる経営理念を作ろうということだろう。

その甲斐あって今回は15名全員がほぼ納得できる経営理念が完成した。

●作業中は、スパイシーな理念、エッジが立った理念、当代無比の理念を作ろうと懸命に虚空をにらむ。だが、真っ白い紙を前にすると、なかなか考えがまとまらず、ペンも止まったままになる。
だから、ウォーミングアップを兼ねて8個の質問を用意してあるので、まずはそちらに回答してもらう。

1.私は何のために今の会社を経営しているか
2.将来どのような会社にしたいか
3.好きな会社、理想とする会社や組織はあるか(あれば、その理由)
4.どんな社員やパートナーと一緒に仕事をしたいか
5.どんなお客が当社の主力ターゲットか
6.我社はそのお客にどのような貢献ができるか
7.地域社会やステークホルダーとの関係はどのようにしたいか
8.好きな言葉、信条、名言、座右の銘など

これらもかなり難しい質問ではあるが、思いついたキーワードだけでもよいので書いていくと頭が整理できる。

●この回答の中から、経営理念の核やキーワードが浮かび上がってくる。
また、他社事例も大いに参考にしよう。ユニークな会社にはユニークな経営理念が存在する。配布された参考資料には、ユニクロやワタミ、タビオ、スターバックス、山田養蜂場、吉本興業など30社を超える会社の理念が並んでいる。いずれも個性あふれる良い理念なので、そこから理念を表現するスタイルを選択してもよい。

●鍛造会社を経営するS社長(33歳)が相談に来られた。

氏が手にしている紙には、今できたばかりの経営理念が書かれていた。

<株式会社○○鍛造所 経営理念>

一.私たちは、お客様に満足感を与え、感謝される会社を目指します
一.私たちは、目標を達成するために、互いの個性を大切にし、時に力を合わせ、時に競い合い、時に話し合い、互いの理解に努めます
一.私たちは良品を生産し、価値の高い仕事をします
一.私たちは意思決定後、すみやかに行動します

●「ほぉ、立派な経営理念ですね」と私が言うと、S社長は浮かない顔をしている。「インパクトが足りません。うちの会社らしさが出ていないのです。なんだか去勢されたみたい」という。

武沢「去勢されちゃいましたか?ふ~む、それはいけませんね。じゃあ質問しますが、去勢されていないSさんの会社とはどんな会社なんですか?」
S社長「男ばかりの荒々しい職場ですよ。溶鉱炉でゴウゴウと鉄を燃やし、それを金型でプレスして部品を作ります。なにしろ鍛造ですから振動と騒音が大きく、近隣住民から苦情がくるほどです。昔は周囲が工場ばかりだったので問題なかったのですが、最近はそれらの工場が撤退していって、マンションばかり建ち始めた。そこから苦情が来ています。それはそれで何とか解決せねばならんのですが、まあ、とにかく創業以来60年間、男っぽい会社です」
武沢「60年間男っぽい会社か。これからもその路線でいきますか?」
S社長「多少は変わるでしょうが、鍛造業をやるかぎりはこの路線は変えられないでしょう」
武沢「じゃあ、そんな雰囲気が伝わってくる経営理念にしてはいかがですか?」

●そこでS社長が一晩考えて作ってきたのがこの素晴らしい経営理念。

「創業以来60年、鉄を1200℃に燃やしています。これからも鍛造で、世の中を震わせていきます!」

私だけでなく、他の14名の社長もこの経営理念に拍手を送った。