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R社長の信用力

●学習塾を経営するR社長(45)とプロ野球を観に行った。ネット裏のシーズンチケットをお持ちで、我々が席に着くのを待っていたかのように試合が始まった。

●ふだん見ないパリーグの選手だからほとんど知らない顔ぶればかり。
そのせいか「あの背番号8の選手うまいね」とか、「この26番のバッター、打ちそうな感じですね」などと草野球の観戦者のようなコメントを言いながら純粋に野球の勝負を楽しんだ。

●私が子供のように野球に興じているので仕事の話題をしにくかったのかもしれないが、一度だけ出た仕事の話題が脳裏に焼きついた。それは、こんな話だった。

●Rさんの会社は創業以来約20年、地元でも評判の学習塾として比較的順調に事業をのばしてきた。
しかし、最近の2期は連続して赤字を出した。不況による生徒数減少もその理由だが、数年前に自社開発したコンピュータシステムの償却が利益を圧迫しているという。

●それ以前から利益はほとんど分配してしまい、内部留保をしてこなかったので、一気に自己資本比率が悪化した。
3年前のピークには60%以上あった自己資本比率がこの2期連続赤字と借金増加で10%台にまで急落したという。

●「それはまた、一気に落ちましたねぇ」と私。
「ええ、あのピッチャーのフォークボール並みに落ちました」
「まさしくフォークですな」
「ハッハッハ」

●二期連続赤字が確定したときも、Rさんの内心にはまだ余裕があったという。電話一本で運転資金を借りられるはずと高をくくっていたらしい。いつものように赤富士銀行の担当者に「また、ちょっと借してほしんだけど」と電話で頼むと先方もふだん通り「分かりました。
今からうかがいます。書類にご記入いただくのと、最近の決算書と試算表をください」と言った。

●資料を一式手渡した三日後のこと、担当者が浮かぬ声で電話をしてきた。
「あの~、ちょっと申し上げにくいのですが・・・。今回は、融資見送りという結論が返ってきました」という。
「え!見送り、いったいなんで?」
「とにかく今から伺います」

●会って事情を聞こうとしたが、彼も詳しい事情が分からない。ただ、経験者として次のようなことが融資見送りの原因ではないかと語ってくれた。

1.二期連続赤字であるという事実(これは意外に大きい)
2.長年継続してこられた定期積み立てを最近解約された(これも大きい)
3.毎月の試算表を頂いていない(小さいが無視できない)
4.今後の経営計画がない(大きい)
5.資産科目になっている保険金積み立てを担保に借金している(解約返戻金担保借入をした。銀行に無断でしたことがデカイ)

の5点が引っかかったと思う、という話だった。

●特に「5」が一番気になったらしい。赤富士銀行はR社のメインバンク。なのに銀行に相談する前に銀行より高金利な借入をすることが心証を害した可能性があるというのだ。

●「なるほど。大変でしたね、それで今後どうするのですか?」と聞くと「別に銀行に落ち度があったわけではないので、いままで通りお付き合いします」とR社長。
「でも、融資枠がなくなったわけでしょ?」
「ええ、もうこれ以上は借りるなということでしょ。現金収支をきっちり管理して歯をくいしばってしのぎます。それと、これからは信用のマイレージポイントをどんどん貯めるつもりで銀行と接していきますよ」とR社長。

●「信用力」というものはちょっとしたことからヒビが入る。それに気づかされた今回の経験は、R社長の「信用力」を今後より強くするに違いない。