ノイジー・マイノリティ(発言する少数派)とサイレント・マジョリティ(声なき大衆)という言葉がある。多数はいつも寡黙である反面、少数はいつもうるさいのだ。国政をあずかる者も、企業を率いる者もこの深遠な真理を理解しておかねばならない。
ノイジーとサイレントについて、英国人アナリストのピーター・タスカは『日本の大チャンス』(講談社)の中でわかりやすく説明しているが、それをさらに要約して武沢版としてお伝えしよう。
インターネット書店のアマゾン・ドット・コムの出現により、消費者は今までよりはるかに便利に本を買えるようになった。しかも、町の小さな本屋では買えない専門書なども容易に買えるようになった。本当にありがたい。だがこうした新しい技術革新とサービス革新の裏側には、必ず損する人と得する人がいるものだ。
アマゾンのケースでは、損をするのは既存の書店や書籍卸しだ。得をするのは消費者だ。そして、損をする側の一般書店などは、存続の危機すら感じるほどに大きな損をするかたわら、得をする人は小さく得をする。
これをラフに数値化して表現すると、年間に1,000万円損する人が1,000人いる一方で、1,000円得する人が3,000万人いることになる。
つまり、損する人の金額換算は100億円、得する人の金額換算は300億円になる。その差額200億円が新たな価値の創造である。たいていの改革・革新には、こうした損する勢力と得する勢力が生まれる。
損する勢力は、少数ではあるものの存亡の危機ゆえに真剣だ。政治家に働きかけ、組合や団体に圧力をかけて必死になって“アマゾンは違法だ”と訴えるだろう。そして仮に、“アマゾン廃止法案”なるものを政策立案し、国会に提出する。このように、少数ではあるが真剣かつうるさい存在をノイジー・マイノリティ(発言する少数派)という。
一方、“アマゾン廃止法案”を阻止しようとする議員が立ち上がる。こちらは、“アマゾン歓迎法案”だ。そして、歓迎法案に署名を求めようと全国に呼びかける。
「アマゾン歓迎に署名をお願いしま~す!」
だが、その結果は惨たんたるものだろう。なぜなら、一般の人にとって、それはわずか1,000円の問題だから。このようにして、本来300億円の価値を享受するはずだった大衆は、何もなかったかのようにアマゾンが廃止されるのを見守っている。こうした多数の人々を、サイレントマジョリティ(声なき大衆)という。
(注:実際にはアマゾンさんは立派にやっておられます)
この教訓から何が言えるだろうか。
1.声のデカイうるさいやつらの意見には注意しろ
2.声なき大衆の意見に耳を傾けろ
3.商品開発は声なき大衆に向けてやれ
4.ネット社会は、サイレントマジョリティに拡声機を与える
あなたは何を感じとられただろうか。