ゆとり教育を受けて育った世代を「ゆとり世代」という。だが、その用語を ”為にする議論” でつかうと差別になるという話を聞いた。私の場合は、子ども三人がすべて「ゆとり世代」なので、「非ゆとり」との差がよく分からない。だから ”為にする議論” をするつもりもないわけだが、「ゆとり」とは関係なく世代間格差に驚く機会がどんどん増えている。
最近のあるセミナーで海軍大将・山本五十六(やまもといそろく)氏の言葉を引用した。人づかいに関する山本のあの有名な言葉である。
「やってみせ、言ってきかせて、させてみて、ほめてやらねば、人は動かじ」(山本五十六)
「いいことばですね」と若い経営者がメモしていた。私は気を良くして山本の経歴について語り、長岡の記念館に行ったことなどを話した。すると、「実在の方なのですね」「いつごろの方ですか」と質問され、内心で驚いた。気を取りなおして私は「山本五十六をご存知の方はどれくらいお見えですか?」とセミナー参加者に尋ねたところ、手が上がらなかった方が複数いた。いずれも40歳前後の経営者だったと思う。
「パナソニックって日本の会社なの」とある知人に聞かれて驚いたことがあるが、その方に山本五十六を知っているかどうか聞いてみた。すると「聞いたことがないけど、どういうジャンルの方?」と逆に質問された。かつて親しい社長(20歳代)が「特攻隊ってなんですか?」と真剣に聞いてきたときにも相当な衝撃を受けた。
社会のおとなは、若者に対して「自慢話」「説教」「昔話」の三つをやってはいけないというような暗黙の風潮がある。それは年寄り臭い人がやることだと。だが、ほどほどの分量であれば、それらは大いにやるべきだと私は思う。人は「歴史」を語り継がなくなったとき、先祖や先輩、郷土や会社に対する誇りがもてなくなり、やがて滅びる。自慢話や昔話は自分の手柄のためにするのではなく、立派な功績があった先人のことを語る。それは若者に対するおとなの責任でもあるはずだ。
「会社の歴史を語る必要はよく理解できました。問題は、社員教育で会社の歴史を語る機会がなかなか作れません。どんな方法でやればよいですか?」とセミナーで質問された。
「仕組みにしてしまえばいいですよ」とこんな回答をした。
「経営計画書を朝礼のたびに3ページずつ読み合わせし、解説を加える。その経営計画書のなかに我社の略年譜を入れておけば、必ず年に何回かはそのページを解説することになる。そうやって進められれば、ごく自然に歴史が伝承されていくでしょう」
歴史の伝承、先人に対する誇り。それは会社経営においても重要なテーマである。