●昨夜は刈谷市からお越しになった稲本社長(仮名、52才)と会食。
待ち合わせの丸善で合流するなり「ちょっとこれを見てほしい」と氏が新しい名刺を差しだした。
よく見ると蛙(かえる)の格好をした名刺で、中央に大きな文字でこう書かれている。
『2010年、大きくカエル』
●「へえ、おもしろいですね。クレドカードってやつですか。じゃあ寿司でもつまみながらこの名刺のココロを聞かせてくださいよ」タクシーで目的地へ移動しながら、私はカエルの思い出をお話しした。
●昔、つとめていた会社を退職したとき同僚たちが送別会を開いてくれた。最後に記念品贈呈ということになり、お金を出しあって買ってくれたカエルの置物をもらった。
「うわぁ、カエルはゴキブリの次に苦手なんだ」と言いたいのをグッとこらえてお礼を言ったら、幹事が送別のあいさつをした。
「武沢、この置物を見るたびに俺たちのことを思い出してくれ。そしていつでも俺たちのところにカエッてきてくれ」
なるほど、「カエルと帰る」のゴロ合わせだとその時始めて知った。
だが、彼らの会社はすでになく、彼らも私もカエルところを失ってしまった。
●そんな胸がキュンとする思い出話が終わったとき、お目当ての寿司屋に着いた。
おしぼりで手を拭きながら「武沢さんね、僕はそれとは違う意味でカエルをテーマにした」と言う。
氏のカエルには次のような思いが込められているらしい。
・自分をカエル
・会社をカエル
・人生をカエル
・見ちガエル
・若ガエル
・甦る(よみガエル)
・覆る(くつガエル)
●「ほぉ、稲本さん。そんなにめでたい言葉がポンポンでるなんて、かなり研究しましたね」
「もちろんですよ、武沢さん。本当は”女房もカエル”と言いたいが、それは内緒にしておいてください。アッハッハッハ!」
「わぁひどい。アハハハ・・」
●乾杯が済んで私から質問した。
「そんなにもいろいろ変えねばならんですか?」
「ええ、何もかも劇的に」
●ふぐの白子をつまみながら稲本社長は、自分も会社も社員も何もかも劇的に変わらないと今の事業一本ではやってゆけないと、今の惨状を聞かせてくれた。
今期の業績だけを聞くと相当深刻な状態だが、過去の蓄えがあるおかげでこうしていられるという。
●氏と前回お会いしたのはたしか去年の真夏だったと思うが、その当時はまだ、氏の会社は我が世の春を謳歌していた。
トヨタショック以降、急転直下の業績悪化。すぐに良くなると思ったので一気にやらず小出しにしたおかげで、この一年だけで数回のリストラをやる羽目になった。
●そんな稲本社長ゆえに、決意も新たに「カエル」で行くという。
煮蛤をほうばりながら私は氏にアドバイスらしきことを申し上げた。
「稲本さんね、人間は急には変われない。何もかも劇的にカエルという心意気は大いに結構だが、実際問題として変えてはいけないものもあるし、一気に変えることによって『ホメオスタシス』(恒常性維持、リバウンドのこと)が働くから注意が必要だよ。痛い手術は患部に集中して一気にやっちゃうべきだが、一度に全身やってはいかんと思うがどうだろう」
●寿司屋の勘定を済ませ、二次会に向かうタクシーの中で稲本社長はジョークを飛ばした。
「改革は一気にやってはならんということですね。そうかぁ、カエルになるのはまだ早いようだから、まずは来年、”おたまじゃくし” で行っときますか。新しい名刺をお楽しみに!」
名刺はそのままでいいのに・・・。
カエルが苦手でない方に、このカエル名刺のアイデアを無料で差し上げたい。