「武沢さん、自分でいうのも何ですが、僕は時間の使い方が本当に下手くそなんですよ。この問題さえなくせば、僕はものすごい業績をあげていると思う。」と日頃から時間下手を“豪語”している上島社長(仮名)。
そんなある日、この上島社長と一日の大半をともにする出張の機会があった。私はこの機会に、上島さんがどの程度時間の使い方が下手なものかを確かめることが出来ただろうか。
とんでもない。上島社長の時間の使い方は鉄人級に上手だったのだ。計画的で、早め早めに目的地に到着していく。移動時間や休憩時間もしっかり予定に組み込まれ、無駄がない。
充実した一日が過ぎていった。
帰りの新幹線で「プシュッ!」と缶ビールを空けながら、私は上島社長に申し上げた。「上島さん、時間の使い方が下手だなんて謙遜以外の何ものでもないじゃないですか。驚きましたよ、今日の計画的な行動は。」
するとワインを片手にした上島さんから面白い答えが返ってきた。
「武沢さん、僕が大好きな将棋の世界では、『着眼大局・着手小局』という言葉がありましてね。将棋の盤面全体、いや盤面の外にまで目を配るような広い視野を忘れないことと同時に、小さな小さな部分的戦いにも細心の注意を払うことが大切だ、というような意味で使います。両方備わって初めて勝てるのですね。今日ご覧いただいた私の行動は、『着手小局』の部分でして、『着眼大局』のほうはお見せしていない。問題なのはそっちの方ですよ。」
車中での会話はここから盛り上がっていったが、缶ビールのせいでほとんど覚えていない。なるほど、時間の使い方にも大局と小局、戦略と戦術のようなものがあるに違いない。タイムマネジメントの達人が生き方の達人と呼べない理由もここにある。
一生懸命やっているのに、充足感の足りなさを感じる時がある。それは、価値観・ミッション・理念という根っこの部分と、今やっていることとがリンクしていない時に感じるものではないだろうか。リンク切れがないようにするためには、個人的作業が必要になる。
リンク切れとは何か?
期限のない目標、期限のない経営課題は永遠に課題リストに載ったまま実行されずに終わっていく運命にある。それをリンク切れと呼ぶ。これを未然に防ぐために、あの手この手を駆使して夢や目標を実行に移すための作業が必要になる。タスクを分解することや、個別の作業に期限を切ること、定期的に計画を評価修正すること、計画に他人を巻き込んでいよいよ戻れないようにすることなど、方法論はいろいろある。
今のあなたにどのような方法論が最適なのかは分からない。だが、大切なことは一昨日のイタリア戦を勝った韓国サッカーが教えてくれたような気がする。
サッカーの場合、良いプレイをすることが目的ではなく、勝つことが目的である。勝つために良いプレイが必要なのだ。ビジネスや経営の目的も、良い仕事をすることではなく、結果を出すことである。
あなたが職業人生において成し遂げたい結果とは何か?それを明確にすることが全ての始まりなのだ。方法論の問題ではなく、生きる姿勢の問題が時間管理を左右しているように思う。
あなたの目的を測定可能な状態で表現し、それに期限を設定してみてはいかがだろうか。
測定可能になったとたん、「リンク切れ」なんてのんびりしたことが許されなくなるはずだ。