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君子か小人か

●まず『論語』の一節から。

・仁を好みて学を好まざれば、其の弊や愚なり
・知を好みて学を学ばざれば、其の弊や蕩なり
・信を好みて学を学ばざれば、其の弊や賊なり
・直を好みて学を学ばざれば、其の弊や絞なり
・勇を好みて学を学ばざれば、其の弊や乱なり
・剛を好みて学を学ばざれば、其の弊や狂なり

意味はこうなる。

・仁道を好む人は情け深いものであるが、もしそれだけで真の学問を学ばなければその仁の行為は、情けにおぼれるという愚におちいってしまうものである。
・知識を好み、いろんなことを知っていても真の学問を学ばなければ、とりとめのない結果になってしまうものである。
・うそいつわりが嫌いで、信を好む人であったとしても、学問をしなければ前後をわきまえず、かえってものごとを損ねてしまうものである。
・正直は良いことであるが、学問をしていないと正直一途の頑固者、融通のきかない困った結果になるものである。
・勇気があることは良いことだが、学問がなければただ勇ましいだけで世を乱す結果になるものである。
・強者であることは良いことだが、学問がなければいたずらに力をふりまわす狂者にひとしくなる。

●いくら性格や心意気がすばらしくても、きちんと学問をしていなければ意味ある結果にはつながらないという忠告である。この場合の学問とは、儒教、つまり君子のための政治・道徳学である。

●あなたが儒教的背景をもった「君子」なのか、それとも欲得だけで動く「小人」なのか、それを見抜こうとするのが華人(中国人)の知恵だという。

●昨日の「中部和僑会」の例会は実に良い勉強をさせていただいた。
日中ビジネスのあり方を根本から考えさせられるような興味深いお話しだったのだ。
演題は、「中国を変えた華人ネットワーク」。講師は古田茂美女史。
氏は香港貿易発展局・日本首席代表、日本香港協会連合会名誉事務局長の肩書きをもつ。香港を拠点にずっと華人と中国をみてこられた。

●中国と中国人ならびに中国でのビジネスを理解する上で、華僑のことをもっと知っておくべきだと女史。
華僑の存在は我々もよく知っている。だが何となく同族的、排他的なイメージがする華僑について、その詳しい実態を知らないまま丸腰で現地でビジネスしようとするのは無謀というものだ。

●天安門から20年、その後の中国の発展を支えてきたのは華人ネットワークつまり華僑の存在である。そして、これからもこのネットワークはますます大きな影響力をもつようになるだろう。

●いまの中国の経済成長は、日本が戦後においてなし遂げてきた姿と重なる。今から30年前には、日本的経営の素晴らしさを欧米企業が真剣に学んだものである。日本はなぜ強いのか、それは日本文化と日本的経営によるものとされ、政治は二流だが経済は一流と評価された。

●日本的経営とは、経営管理においては社員の高い忠誠心と労使関係の結束の固さや終身雇用、人間教育にまで踏みこんだ人材育成システム、年功序列を重視した人事制度などがあげられる。
経営インフラ面では、日本独自の系列企業群があり、同業者の強い結束(反面それが談合などの別問題も生んだが)、国や地方からのきめ細かい行政支援(助成金や制度融資など)でセーフティネットを張るところなど、日本の強さの源泉を彼らは徹底的に学んだ。
いや、学んだだけでなく壊しにかかった。そして一部は彼らの思惑どおり見事に壊れていった。

●今や世界の覇権が中国に向かいつつあるが、かの国のことをよく知ったうえで日本と日本人の今後のあり方や戦略を考えるべきだろう。

昨日の古田女史のお話しは示唆に富んでいてとても今日このスペースでご紹介しきれるわけではないが、「君子」か「小人」か。これが華人とつきあう上でのキーワードのようだ。

●過去の戦争のきずあとが今も残り、日本人全体を「小人」と見なす空気が残っている中国。そんな中に飛び込んでいって「君子」の評価をもらうにはある程度の時間が必要だろう。
もちろん技術や製品、サービスの素晴らしさが大切だが、それに加えてあなたが「君子」にふさわしい学問があるかどうか、それが鍵をにぎるようだ。