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What’s New ばかりで良いのか?


●あなたが今までに読んだ本の中で、もっともたくさんくり返した本は何だろうか?そして、その回数は何回?

先日の「がんばれ!ナイト」で速読指導家として人気の寺田昌嗣さんをお招きし、速読体験レッスンをやっていただいた。
冒頭、寺田さんがこう聞いた。

「皆さんの中で過去1年間で同じ本を3回以上くり返して読んだ方は挙手してください」

●私は残念ながら手を挙げられなかったが、40名いた受講者のうち、お二人から手があがった。

「へぇ、二人もいるんだ、すごいなあ」と思っていたら、そのうちの一人は、一冊の本を今までに数百回は読んでいるそうで更にびっくりさせられた。

●過去にもっとも多くくり返した本は何だろう。
思い浮かぶのはあの本か、この本か。どちらにしても回数は10回以下である。たぶん数回程度だと思う。

●古くから「読者百編意自ずから通ず」というが、ある本を完全に自分のものにしようとしたら、何十回も何百回も読むべきだと思う。

だが、いかんせん読みたい本や読むべき本が多いのと、”限界効用逓減の法則”(げんかいこうよう ていげんのほうそく)を知っているものとしては、次々に新しい本ばかりに手が伸びる。

●それは読書に限ったことではなく、映画も旅行も音楽も食事も次々に新しいものがほしくなる。同じ料理屋や同じ温泉旅館に何度も通うようなことはしないものだ。

●「ニュース」の語源が「New(新しい)」であるように、英語で「やあ元気?」とあいさつするのも「What’s New」である。
決して「What’s Old?」とは言わない。だからついつい新しいことが良いことだと思い込みがちになるのだが、本当は「What’s New?」ではなく、「What’s Deep」(何が深化した)と聞いてほしい。

●江戸時代の学者・荻生徂徠(おぎゅう そらい)は、父が寒村に流罪となったため、14才のときに彼も田舎生活を始めることになった。
一番困ったのは学問である。先生も本も学友もいない、そんな境遇になったわけだ。
そこに、たまたま『大学諺解』という中国古典「大学」の解説書一冊だけがあった。やむなく徂徠はその一冊だけをくり返しくり返し読んだ。当然、完全に丸暗記した。縦書きのその本を横にも書けるようになったという。

●10年後、赦されて父と一緒に江戸へ戻った徂徠だが、その時すでに、周囲の学者を圧倒する実力者になっていたという。
先生も本も学友もいなくとも、一冊の本だけでそこまでになれるという。

●夏目漱石の少年時代のように、周囲の子と遊ぶことを好まず、土蔵にこもって自分の好きな本を読みふけり、思索にひたる少年時代を過ごすのも悪くないかもしれない。

大人になって、多忙になっても、くり返し読み返す本をもつ人は幸いである。