●私の30代の仕事はもっぱら外回りの営業。くる日もくる日も初対面の人とマンツーマンで会って商談し、セールスすることが私の仕事だった。
●とは言え、人見知りするタイプだった私は知らない人に会うのが億劫だった。だからといって誰にも会わなければ仕事にならない。なのでマニュアルに頼ってセールストークを丸暗記し、こちらと相手の間には必ず便せんを置いて筆談しながら営業したものだ。
●そうすれば相手と目を会わせて向かい合う時間が減る。プレッシャーが軽くなるだけでなく、筆談することで相手の人が質問に答えてくれやすいことも分かった。
たとえば話の流れの中で、
・1990年あなたの年収 約 ________ 万円(税込)
・ほしいもの?行きたい所?誰かにしてあげたいこと?
という具合にしてペンを差し出せば、10人のうち9人がその場で本当のことを書いてくれた。口では言いにくいことでも紙に書くとき、人はノーガードになるのだろうか。
●クロージングもこうなる。
・正直言って、やってみたいですよね(○を付ける) __はい__
押し出しが弱い口下手な私がセールスを成功させるには、自分にあったやり方を開発するしかなかったわけだ。
●そんな「筆談セールスマン」時代を思い出させるような記事を最近読んだ。
『YUCASEE MEDIA(ゆかしメディア)』2009年7月31日号に「筆談ホステス」斉藤里恵さんを取材した記事があった。それはこのような内容だ。
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夜の銀座に800店あるとも言われるクラブもバタバタと倒れて姿を消し、ホステスさんも電車通勤、電車帰宅して経費を節約する中、同じ銀座でも勝ち組はいる。しかも、それが健常者ではなく、耳が聞こえないために通常の会話ができない人だとしたら。そんなことが信じられるだろうか?そう、自身の半生を描いた著書「筆談ホステス」がたちまちベストセラーとなった斉藤里恵さん(25)だ。
青森出身の里恵さんは美形で、にこやかな笑顔が似合う小柄な女性。
コミュニケーションを取るために、声を発することはできない。常にメモとペンを携帯している。
里恵さんにとって、この2点セットが「相方」と呼べる存在だ。相手のセリフが書かれたメモと唇の動きを読みながら、メモに筆記して返す。
会話のすべてが筆談だ。
(中略)
銀座で働き始めて2年。里恵さんの月収は今では、不景気と言えども百万円を超える。
・・・
●ふつうの会話ができないのに、ひっきりなしにご指名が入る里恵さん。
お互いに書いたものを見せ合うために二人の物理的な距離が近くなるし、周囲に聞かれる心配がないので、本当に思っていることを正直に書ける。だから本音の交流、秘密の会話もできるのだろう。
●おまけに書いたものはラブレターのようにあとから何度でも読み返すことができる。きっと、「この紙を持ち帰ってもいいかい?」と聞かれることも多いに違いない。
なんなら店中全体を「筆談」にしてしまったらどうなのだろう。
ビジネスに「筆談」を上手に活用してみよう。
★YUCASEE MEDIA
http://media.yucasee.jp/posts/index/1407?oa=ymb6172
★筆談ホステス(斉藤里恵著、光文社刊)