『失敗のしようがない華僑の起業ノート』(大城 太著、日本実業出版社)には、華僑ならではの教えが散りばめられていて興味深い。私は19箇所に付箋を貼ったが、中でも特に印象的なところを昨日・今日・明日の三日間でご紹介する。
「会社という箱を売れないようでは何も売れない」
日本では「会社よりも先に自分を売れ」と教えることが多い。自分がどんな人間であるかをチラシや巻物にして配っている営業マンも少なくない。日本よりも個人主義が強い中国に行っても、会社の名刺を配って歩くよりは、自分自身を主張している人たちが多いようだ。だが華僑の教えでは、それはとんでもない勘違いだという。自分は未熟なところが多々あるが、会社はしっかりしている。会社の製品やサービスには盤石の自信がある、と会社名を売り込みなさいと教える。その結果、自分の名前で呼ばれるよりも「○○社さん」と会社名を呼ばれることを誇りにする。それができる人が将来起業したとき、無名の自社を売り込むことができるようになる。いつも自分しか売れない人間では大した仕事ができないという華僑の考え方には私も同意できる。いや、それはもともと日本がお家芸としていたものではなかろうか。
「人は辞める、のが前提」
中国企業では旧正月の休暇中に社員の3分の1が入れ替わるようなことがよくある。工場労働者だけでなくホワイトカラーの幹部も辞めていく。基本的に中国人は皆、トップを目指しているから誰かに仕えていることは恥ずかしいという感覚があるともいう。国家の歴史や文化の違いが日本とのビジネス常識、経営常識の違いになっている。社員がすぐに辞めるのなら、経営者もそれを前提にしている。とくに起業して何年かの間は、特定社員に依存せず、人が入れ替わっても回せる仕組みを華僑の人たちは大切にする。そのあたりは日本の起業家も参考にしたい。「社員は誰でもいい」というぐらいの気持ちがないと、特定社員のご機嫌をとって、本来やるべきことをやらずに妥協してしまったり、言うべきことが言えなくなったりする。誰が社長か分からない会社になってしまう。そのようにして社員を甘やかせてしまった会社になるのは、社員に「辞めないでほしい」と思っているから。極端な言い方をすれば、「自分の他は誰でもいい」というスタンスを貫くことが起業を成功させる上で大切だと考える華僑。全面的に賛同するには時間がかかるが、少しは取り入れたい考えである。
「金を出す人はどこにでもいる」
ビジネスは3者が役割分担して回していくもの。3者とは、お金を出す人、アイデアを出す人、作業をする人、の3者である。銀行がお金を貸さないからと、起業を諦めている人がいるが、お金を出す人はどこにでもいる。親戚や友人からお金を借りてはいけない、貸してもいけない、という暗黙の掟のようなものが私たちにあるが、事業に投資してもらい利息や配当で利益をお返しするのが本来の社長業。投資家も利益が出れば、もっとたくさん投資したいと考えてくれるようになる。それが信用の拡大というもの。小さい信用を大きな信用に育てていくわけだ。それが資本主義、信用経済というもの。
また、アイデアを出すのは起業家(社長)だが、その人が「作業する人」も兼ねてしまうとビジネスの成長スピードは鈍くなる。お金を出す人、アイデアを出す人、作業する人。最初は小さいトライアングルでスタートするがそのトライアングルを二つ、三つと重ねあわせて大きなものに育てていく。こうした実践的知恵は、一般的なビジネス書には書かれていないだろう。
失敗のしようがない華僑の起業ノート
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<明日、この稿の最終回>