●「僕は役人を厭う。時を定めて家を出て、時を定めて帰るなどは、僕の堪えざる所なり」と竜馬はいう。
幕末にあって、あちこちにほころびが出てきた徳川幕府をたおし、新しい国をつくることに人一倍興味があった竜馬だが、その国の役人になる気はなかったようだ。
そのあたり、「私を総裁選候補に」などと真顔で要求する人物とはスケール感が違う。
●そんな竜馬でも、人生で何度か節を曲げている。思想や主義主張というものは時々変わることがあるようだ。
竜馬が江戸に出て神田の北辰一刀流・千葉道場で修行していたころ、道場主の息子・千葉重太郎と親しくなった。
重太郎は、「けがれた外国人を神聖な日本に入れるな。外国人打つべし!」という当時流行の”攘夷思想”にかぶれていた。
ある日、その重太郎が竜馬をけしかけた。
●「外国と国交を開け、などと勝(海舟)は腰ぬけなことを言ってやがる。今から勝を斬りに行く」と竜馬をそそのかして勝の屋敷を訪ねた。
「こいつらオレを斬りに来たな」とすぐにわかった勝だが、やくざ者ではなさそうだ。話せば分かるかも知れないと思い、座敷に通し世界情勢を説きはじめた勝。
●まず地球儀を見せ、日本の小ささで彼らをおどろかせた。
次いで欧米列強の国々がアジア・アフリカ・南米の諸国をきたない手段で次々に植民地化していく様子を生々しく語って聞かせた。
「だから日本はいつまでも鎖国していてはだめで、欧米と対等につきあい、独立を維持できるような国をつくっていかねばならない。ここでもし攘夷政策などしていては、日本は第二第三のインドや清国になる」
●「それでもいいのかえ、おめえさんたちゃ」
という勝に向かって重太郎が「勝さん」と大声を出し、脇にあった太刀を手元に引き寄せ、つばに手をかけて斬ろうとした瞬間、横にいた竜馬がそれよりも大声で重太郎の機先を制した。
「弟子にしてください」
●「ひどいよ、竜さん」と帰り道になげく重太郎。
だが、竜馬は本気だった。
勝の話もさることながら、その人物に惹かれた。勝は腹を据えてしゃべっている。そのことが剣の名士でもあった竜馬だからすぐに読みとることができたのだろう。本物の人物に出会えてすがすがしい気分であったろう。
●勝に言われるがまま海軍に入り、船を操る練習をはじめる竜馬。
そちらでもセンスの良さを発揮し船乗りから船長を目指していた時期もあるほどだ。
やがて徳川のための海軍づくりに奔走し、それが後の海援隊と亀山社中、あるいは明治政府の海軍にまでつながっていくのだから、このときの勝邸における竜馬の宗旨替えがなければ、彼の人生も日本の歴史も大いに変わっていたことだろう。
●ひるがえってみるに、私たちの経営理念も竜馬の宗旨替えほど大きく変わるかどうかは別にして、小さい変更はつきものである。
東京のK社長は今年の5月下旬に経営理念をはじめて作られた。それからKさんはそれを毎日(本当に毎日)推敲していった。その様子を私にメールで教えてくれた。紹介の許可をいただいていないので、内容はアレンジしてご紹介したい。
●最初の経営理念
「わたしたちは、コアメンバー+各業界最強のアライアンスの一体化(コラボレーション)で、クライアントの不可能を可能にします」
●推敲初日
わたしたちは、コアメンバー+各業界最強のアライアンスメンバーの一体化(コラボレーション)で不可能を可能にします。
私たちは会計・財務のコンサルティング業界においてホスピタリティーNO.1と認められる会社になります。
●推敲二日目
オーナーの右腕、知恵袋となって、他では決して解決できないクライアントの課題・問題にチャレンジし、たえずクライアントの期待を上回る提案を行い、クライアントに喜びと感動を与える会計・財務の専門家集団をめざします。
●推敲三日目
Knowledge 高い専門性と豊富なノウハウ
Hospitality 思いやりとおもてなしの気持ち
Surprise 期待を超えるサービスと感動
Thanks お客様からの「ありがとう」が 私たちの一番の喜びです
私たちは オーナーの知恵袋です
そして、我々は次のステージ(Next Stage)へ共に挑戦し続けます
推敲四日目~九日目まで毎日変化しているがここでは省略。
●そして推敲十日目
私たちはサイシン(最新・最深)の知識と知恵に基づく、プロフェッショナルサービスを提供することにより、お客様の成長・発展・安定に貢献します。
●それでも、ご本人は「まだ未完成」だという。
たしかにもっと個性的であってほしいという気がするが、まずはこうした作業を続けることに意味があるのでこのプロセスを讃えたい。
あとは、「もう変えたくない」「変える必要を感じない」と思えるまで理念を推敲しよう。
K社長のように理念を作った直後から毎日推敲する方法が良いし、他には、毎月の月次計画に「月間経営理念」を掲げ、しばらくの間は、あえて毎月理念を変えるのもよい。
あるいは年次経営理念、上半期・下半期経営理念、週間経営理念、今日の経営理念など何でもあり。とにかくコロコロ変えよう。
変えたくなくなるまで変えるのがミソである。
●中堅中小企業の社長は、世間一般の会社を経営できなくてもいい。
ただし、あなたの会社を経営させたら誰にも負けない、そんな社長を目指したいもの。だからあなたオリジナル、御社オリジナルの経営理念が欠かせないのである。