●イケメンもかなり見飽きてきた感があるが、ここ最近のイケメン男子ブームはすごかった。彼らを見ると少女マンガに登場する貴公子のような顔をしている。
イケメンであること自体は批判の対象にはならないが、イケメンの上にあぐらをかいて、内面に磨きをかけないと35才くらいから苦労するはずだ。
●先日、イケメンの代表格・水嶋ヒロにどこか似ている今年33才の社長とお会いした。彼の名は仮に水嶋社長としておく。名刺を見ると、「水嶋OAサービス株式会社」とある。
●氏の用件は、”取締役”か”経営顧問”を私にやれ、いうことだった。
去年から「がんばれ社長!」を読み始め、この人を味方に引き込もうと思ったらしい。
だが私が、「あいにくそういう仕事は引きうけていない」とその場で辞退した。
「なぜダメなのですか」と聞くので私は、「自分は書き手であり、即興アドバイスの仕事にむいているとは思わない。それに決まった時間に決まった場所へ行くことがスケジュール帳に入っているのが好きではない」とズボラな事をいうと、「じゃあ、せめて年に4回ほどでも経営相談に乗ってほしい。もちろん私から伺う」と粘る。
●申し訳なく思い、「とりあえず経営計画を拝見して助言を差し上げるくらいならば一度やってみましょう」とスポット契約をお受けした。
その翌週の武沢と水嶋社長のやりとりが以下の通り。
例によって内容はアレンジしてある。
「会社の概要をもう一度聞かせてください」
「はい、うちは中古のオフィス機器の仕入れ販売をやっています。5年前に”パソコン教室”として創業したのですが、今の事業の方が何倍も儲かることが分かり、こちら一本にしました」
「ほぉ、そんなに儲かるのですか?」
「はい、性風俗の産業よりも儲かります。それは冗談ですが、不況知らずです」
「業界全体がそうなのですか?」
「いえ、業界全体は伸び悩んでいると聞きます。その一番の問題は仕入れが難しい。良い状態の中古機器を調達するのは容易ではありません。次に在庫のお金とスペースの問題、これがバカにならない。なにしろかさばりますから。最後に販売力の問題もありますが、良いものを仕入れれば、羽が生えたようにすぐに売れていきますから販売力はそれほど重要ではありません」
「なるほど」
●「経営理念」の欄にはこう書いてあった。
・・・私たちは三つの「S」を尊重し、企業のオフィスマネジメントの質の向上とコストダウンを支援します。
三つの「S」とは、真摯、誠実、成功。真摯な姿勢で誠実に仕事し、顧客と我社の成功を勝ち取ります。
・・・
「素晴らしいじゃないですか水嶋さん。実に明快な理念だ。名文家でもある。だが一箇所だけ、ちょっと気になったところがある」
「どこですか?」
「マネジメントの質の向上、という箇所だが、御社が今やっておられることが、それにどうつながるのか教えてほしい」
すると、やや間があって
「そこなんです、武沢さん、実は、それが私の問題のひとつなのです」
●水嶋社長いわく、会社が本当にやりたい仕事は別にあるという。中古機器の販売は、あくまで世をしのぶ仮の姿なのだと。
本当にやりたいことは、オフィスの生産性向上に関するコンサルティングであり、そのための助言や教育事業に進出すること。
一昨年から新卒学生も採用しはじめたが、そのことをウリにした。
●「なぜコンサルティングの事業が始められないのですか」と聞くと、
「忙しすぎるから」だという。
中古オフィス機器を扱うことで、たくさんのオフィスと関係を作ることができると考えてこの事業に参入した。ところが非常にニーズがあることと利益率が高いことで忙しさにかまけ、その事業だけで手一杯という状態がずっと続いている。
●忙しいのなら時間を作ればよいだけでしょ?
と私が言うと、どうやら「忙しい」というのは水嶋社長の逃げ口上。
本当は面倒なことは今のところやりたくない、というのが事の真相のようだ。
私が何を言おうとも彼は、「今はやれない」ということばかり強調する。本当にやりたいことであれば、今の状態に関係なくやるのが人間なのに。
●「水嶋さん、中古機器の販売という立派な仕事を日陰の仕事から、日向の仕事にしてあげましょうよ。決してそれは仮の姿ではなく、堂々とした本業だ。御社の経営理念にもある通り、真摯で誠実に行きましょう」
真摯ということばを広辞苑で調べると「まじめでひたむきなさま」とあった。
「ひたむき」も調べてみたら、物事に熱中するさま、一途なさま。とある。
まじめに一途に熱中することが「真摯」なのだ。それは中古機器販売である。逆からみれば、真摯にやれないことは計画から外す度胸がなければならないのだ。
やりたいのか、やりたくないのか、水嶋社長が胸に手をあてて真摯な決断をする日が近いと思う。