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コテコテの大阪にて

先週末、大阪セミナーを行った。懇親会を終え、S 社長(62)が駅まで見送って下さった。別れ際、「武沢はん、ビリギャル観た?」と聞かれた。「いえ、まだです」と私が答えると、「それはあかんわ。武沢はんらしゅうない。あんさんのお膝元・名古屋の映画やさかい観なあかんわ。あれをみずして今年の邦画は語られへんはずや」とまでおっしゃる。「わかりました。必ず観ます」と約束すると S 社長は満足げに人混みに消えて行った。

その夜は訳あって天王寺に宿をとっていた。懇親会でそのことを話すと「どうしてまた武沢はんが天王寺なん?」と Y 社長。私がきょとんとしていると、かつては飯場があり、ニューハーフも多く出没するなど、かなりディープなスポットとして有名だったらしい。当然、出張者が好んで宿泊するところではなかったと教えられた。そうしたことは他府県の者では分からない。こちらは単に Wish-Listに入っていた「通天閣をみてみたい、登ってみたい」「あべのハルカスに行ってみたい」を実現するために天王寺に宿をとっただけのことである。

それにしても「どうしてまた天王寺?」と聞かれたことにより、天王寺のイメージが少し偏ったものになったのかもしれない。小雨そぼ降る深夜の天王寺駅に降りたつと、バットマンのゴッサムシティに入りこんだように感じられた。「あの、すいません。ホテル・バリタワーはどこでしょうか?」、コンビニの配送員に道を尋ねると幸い、斜め前がバリタワーだった。ここは全館がインドネシアのバリ島を再現しているらしく「じゃらん」でも高評価だったので予約していた。たしかに南国リゾート気分が充満していて女性に受けそうなホテルだが、いかんせん部屋が猛烈に狭く、荷物の多い私にはあわなかった。

翌朝(土曜日)はきれいに晴れわたっていた。チェックアウトし、キャスターバッグを天王寺駅のコインロッカーに預けた。今日は手ぶらになって通天閣、あべのハルカスを回り、昼食をお好み焼きの『牡蠣やまと』でとってから名古屋に戻るという天王寺ゴールデンツアーを計画している。

路上で弁当を売っている女性に「通天閣はどこですか」と尋ねると、「その角を曲がればすぐ見えますよ」と教えられた。たしかにすぐ見えた。「あれが通天閣か」、私はしばらく立ちつくし、感慨にふけった。村田英雄の『王将』は昭和36年に発売され、当時異例の大ヒットとなる150万枚セールスを達成した。

♪ふけばとぶような将棋の駒に♪
♪空に灯がつく 通天閣に♪

それを聞いて勝手に通天閣を想像しはじめてから半世紀、ようやく肉眼で仰ぎ見ることができた。近年では NHK の朝ドラ『ふたりっ子』が通天閣を舞台にしていたはずだ。

そういえば夕べ、大阪の人たちに私はこう聞いていた。

「通天閣は大阪の人たちからみて東京タワーみたいなものですか?」すると「いやぁ」と言いながら割と冷ややかな答えが返ってきた。

・僕は大阪の人間ですが一度も行ったことがありません(50、男)
・私は大学生のときに仲間と行って以来40年ご無沙汰です(62、男)
・いきたいと思ったことすらないですね(40代、男)
・武沢先生の好奇心はとどまるところを知りませんね(30代、男)

「なんだ、そんな程度なの」と拍子抜けしたが百聞は一見にしかずという。天王寺駅から通天閣は徒歩で10分ほどのはずだったが、道を間違えたようで30分近くかかった。おかげで Apple Watch の運動量を計るアプリ「アクティビティ」のグラフは快調に上昇していく。

だが道を間違えたおかげで、テレビでよく映しだされる通天閣を仰ぎ見る通りから入っていけた。

通天閣につながる商店街・飲食店街を「新世界」というが、いまでもその一角には将棋会館がいくつもある。朝から将棋を指しに人が集まってきていた。この「新世界」は二度づけ禁止で有名な串焼き店が軒をつらね、串焼きの聖地でもある。当然お客は人気店を良く知っていて開店前から百メートルぐらいの行列を作っている超人気店もあった。

通天閣の中は予想していた通りコテコテの大阪であった。展望エスカレーターで展望フロアへ。ビリケンさんがいた。足の裏をかいてあげると幸せが訪れるというのでしっかりかいてあげた。こちらは仏像のようにもうすこし重厚なものを想像していたので作り物感が強い実物は私の勝手なイメージとはかなり異なっていた。

何枚も写真を撮って通天閣をあとにし、あべのハルカスに向かった。地上60階建て、高さ300mで、日本で最も高い超高層ビルであると同時に、日本初の「スーパートール」(高層ビル・都市居住協議会の基準による300m以上の超高層建築物)であるだけに、通天閣からもすぐに「あれが あべのハルカス」と分かる。こちらは滞在時間が短かったせいか、印象が薄い。

次にお好み焼きの人気店『牡蠣やまと』へ向かった。あべのハルカスから徒歩数分にある。天王寺界わいでは屈指のお好み屋だけに、昼でも行列覚悟で行ってみた。だが、誰もいないようだ。それどころか店につくとシャッターが降りている。まさか土曜日に休むわけがないと思いながらも食べログを確認してみたら「17時開店」とあった。まだ11時。あと6時間も待つわけにはいかない。

昼食の予定が白紙になり、どうしたものかと思案したあげく、もう一度あべのハルカスにもどることにした。レストラン街に入り、口のなかはお好み焼きになっていたので探し回ったが見当たらない。近くのハンバーグ屋の女性店員に「お好み焼き屋はどこですか?」と聞いたら、「あいにくこちらの館内にはありません」と言われた。かなりがっかりしていたらその女性が、「当店のチーズハンバーグはお好み焼きにひけをとらないほどの美味しさですよ」と言われ、そこに入ることにした。たしかにもう一度行ってみたいと思わせる肉の美味しさだった。

それにしても天王寺。コテコテの大阪も悪くない。大都会・大阪の一面よりも、人情味あふれる下町・大阪の風情が気に入った。

今度は夜の「新世界」を訪れてみたい。