●時間をかけてついに完成させた「経営計画書」を社内発表したのが3年前のこと。
あれから毎年作り、発表会をやってきているが、正直言ってこの3年間、「経営計画」があったおかげで会社が変わったとは思えない。
「自分の経営計画の何がいけないのだろうか?」と考え続けていたY社長(36)の目の前に表れたのがA社長(40)だった。
●異業種交流会で二人は最近出会い、ともに競走馬のメイセイオペラの産駒が大好きだという奇妙な一致点で意気投合した。
「一度Aさんの会社までお邪魔していいですか?」
「うん、いいよ。どうせ来るのだったら第二土曜日に来るといい」
「へぇ、第二土曜日は何かあるのですか?」
「ま、来てみれば分かるよ。その日は朝9時からいろんなことをやるから、8時45分までに来てほしい」
「分かりました。必ず伺います」
●約束通りA社を訪れたY社長はその日、朝9時から夕方5時まで、すさまじい光景を目の当たりにする。
それは「経営計画の日」と呼ばれる一日で、A社で毎月一回(第二土曜日)設定された定例イベントだという。
●その日のメニューはこんな内容だった。
・ 9:00~10:30 経営計画書の読み合わせと補足解説、質疑応答
・10:30~12:00 先月の会社業績の確認
個人目標と実績の確認
次月の目標計画の確認
・13:00~15:00 商品知識&法令、コンプライアンス勉強会
・15:30~17:00 今月の重点課題(議論or勉強会)
●A社で「経営計画の日」を定めたのは三年前のこと。それ以前は、経営計画は一年に一度発表会用に作るだけで、あとはほとんど使われることはなかったという。
「経営計画の日」を始めてからは、少なくとも年に12回は読み合わせをするおかげで、社員に方針や目標が浸透するようになった。
いや、一番浸透したのは社長自身に対してかもしれないとA社長は笑う。
●一日のメニューを終え、二人は近所の小料理屋へ向かった。
「すごい一日を見させていただきました。さっそくウチでもやってみたいのですが、午後の勉強会のネタが続くかどうか少々不安です。ネタ探しはどのようにされているのですか?」
「僕なんかネタに困ったことは一度もないよ。だって社員を教育すべきテーマなんてごろごろあるわけだから。考え方として、午前は『経営計画チェック』に充てて、午後は『社員教育』に充てる。その両輪が相まって経営計画は回り出すと思うんだ」
「今日の午後の勉強会では社長自らが社員にレクチャーされてましたけど、いつもそうですか?」
「基本は僕が直接教える。でもDVDを使ったり教材を買ってきて一緒に勉強したり、外部講師を招いたりして目先を変え、飽きられないような工夫はしている。特に午後は眠くなるから、作業やグループ討議などを交えるなどして、とにかく退屈させないように、盛り上がるように知恵をしぼっている」
●「貴重な一日をありがとうございました」と深々とお辞儀をし、家路についたY社長の脳裏に、「がんばれ社長!」で知ったある名言がよぎった。
たしかこんな言葉だったように思う。
・・・
ほとんどの人は時間をとって考えようとしない。私が国際的な名声を手にしたのは、週に二回考えたからだ。
(劇作家:ジョージ・バーナード・ショー)
・・・
●経営計画を作る段階では真剣に自社のことを考えるけれども、作ったあとは業績のことしか考えない。
いや、考えているのではなく、悩んでいるか喜んでいるかのどちらかだった。
「だったら自分もバーナード・ショーやA社長のように、定期的に経営計画のことをとことん考える日を設定しよう。自分だけではなく、その作業を社員と一緒にやろう!」
タクシーの後部座席で次の一手に思いを馳せるY社長であった。