高級ブランド品を身につけることは滅多にないが、それでも今日は、エルメスのネクタイを締めている。
昨夜の講演会場に愛知県のO設計のO社長(66)が「武沢さんにお礼のプレゼントを持ってきた」と駆けつけてくれた。
手渡された手提げ袋には大々的に「ユニクロ」と書いてあった。
てっきりジャージかTシャツだと思って中をのぞくと、エルメスの箱が出てきてびっくり。ロンドンから一時帰国している娘さんに頼んで見立ててもらったという。
「うわぁ、恐縮です。何のお礼ですか?」と聞くと、「売上げが2倍になったから、そのお礼」だという。
三年前、私の講座に通って作った経営計画の通りに、ちょうど三年で2倍になったというのだ。更に、次の三年計画でも倍増を目論んでいて六年で4倍にする。視界良好だという。
O社長の歯切れの良い話しっぷりと強い目力(めぢから)は、まさに飛ぶ鳥を落とす勢いが感じられた。
「調子良さそうですね」と水をむけると、
「はい。武沢さんのお陰だ。『すくなくとも五年で2倍になるようなアイデアが出せないようでは社長として情けない』とあなたに言われて、新しいサービスを始める踏ん切りがついた。
それがとてもうまくいっている。こうして利益が出だすと、経営者としての選択肢が急に増えてきて仕事がおもしろくなってきた。もうやめられないので、死ぬまで経営者をやる。ただし、社長業は今の社員に早めに譲るつもり。そして株も譲るつもりだけど、もっと財務を良くしてからにしようと思う。
機械設計以外の新しい事業アイデアもいろいろあって、本社を大好きな京都にしようか、とか考えていると毎日ワクワクしてくる。身体のためにも節制するようになって体調もすこぶるいい」
「上機嫌」とは昨夜のO社長のことで、こちらまでつられてビールをあけるピッチが早くなる。とても素晴らしいことだと思う。
タレントグループ「羞恥心」には人気があって「悲壮感」の方には人気がない。それもそのはずで、顔の差、表情の差、笑顔の差である。
お笑いタレントが美しい女性のハートをつかむ理由は「上機嫌」だからだろう。
フランスの哲学者・アランが「もし道徳論を書くようなことがあったら、私は『上機嫌』を義務の第一位におくだろう」と言っているが、経営者の第一条件も上機嫌だと私は思う。
いつも上機嫌でいられるようにすることが大切なのだ。
そんなO社長も三年前は暗かった。
といえばウソになる。
すでに三年前から立派な会社を作っておられて、人から一目も二目も置かれる経営者だったが、それは安定企業と安定生活を手に入れた年配者が発する引退間近のオーラだったように思う。
しかし今は違う。新事業をスタートさせて軌道に乗せ、会社が今からどんどん大きくなり始める黎明期の会社。66才ながら起業家が発するオーラがO社長から出ていた。
決してエルメスを下さったから褒めるのではなく、心からそう思うのでO社長に讃辞を送りたい。
「がんばれ!66才の青年経営者!」