「リピート注文の倍増」を今年の最重要テーマに掲げた株式会社ビリーブ・ジャパン(仮名)の郷田社長は、「もっとたくさんお客さんを回れ」と営業に檄を飛ばした。
ビリーブ・ジャパンは社員教育用の教材を訪問販売する会社で、営業マンは「コンサルタント」という肩書きで中小企業を飛び込み訪問しセールスする。
給料は売上げに正比例する歩合制なので、営業マンはアフターフォローよりも新規受注活動ばかりに精を出す。その結果、昨年はお客の1割しか追加注文をくれなかった。今後3年以内にリピート率を5割にするのが郷田の目標である。
だが郷田の檄が営業マンには届かないようだ。
「忙しくてフォローに回れない」という口実で営業マンは依然として新規開拓ばかりを続けている。
そこで郷田は一計をめぐらした。歩合の変更である。
新規の受注分の歩合率を落とし、追加注文の歩合を上げた。これで営業マンもフォローに回ってくれるに違いないと郷田は考えたわけだ。
だが、それでも効果は上がらない。
営業マンは新規客ばかりを追いかける本能をもっているかのようだ。
困り果てた郷田は武沢に相談し、営業会議への参加を依頼した。
「どのようにしたらリピート率を高められるか」というテーマで営業社員7名全員参加のもと議論する。
武沢はオブザーバー役での参加だった。
「さすが営業マン」と思えるような活発な意見交換が続いていたが、武沢はあることに気づきはじめた。
営業マンは無意識のうちにお客を避けていると感じたのだ。
そこで武沢は営業マンに質問した。
「ところで基本的なことをお聞きしますが、皆さんがセールスしている教材は本当に良いものだと言えますか?」
「教材の価格はお値打ちで、お客さんが得られる利益は大きいと言えますか?」
「親戚や親友にも自信をもってこの商品をおすすめできますか?」
すると、先ほどまでの活発な空気があきらかに変わった。
中堅営業マンの桜田が挙手し発言した。
「武沢先生、もちろん素晴らしい教材です。値段は100万円するので私のポケットマネーでは買えませんが、企業さんが社員教育に使うわけですからすごくお値打ちです。教材の内容は・・・・」
セールストークを聞かされそうになったので話をさえぎり、次の質問をした。
「皆さん、天井を見上げて目を閉じてください。そして両手を上げてバンザイの格好をしてください」
全員が同じ格好になった。
「今から簡易アンケートを行います。自社の教材が本当に素晴らしいと思っている人は左手を下ろして右手だけあげていて下さい。自社の教材に対してまだ自信をもてていない人は右手を下ろし、左手だけを上にあげていてください。いいですね、では右左どちらかでお願いします。ではどうぞ」
<明日につづく>