この週末、岡山非凡会で訪れた備中(岡山県)の旅日記をお届けしたい。
5月31日(土) 午前9時15分発 のぞみに乗る。目的は岡山非凡会。
集合は伯備(はくび)線の「方谷」(ほうこく)駅。岡山でローカル線に乗り換えて山間部をガタゴト走る。車両内で老女たちが孫の話をしているが、方言で何を言っているのか分からず、旅情をかきたててくれる。
「方谷」駅は、ある意味、日本でここにしかないめずらしい駅である。それは、人名がつけられた唯一の駅だから。
昭和3年、当時の鉄道省は伯備線を開通させるにあたり、この駅名を何にするか考えていた。当初は、中井・西方・長瀬のいずれかに決まるはずだったが、地元民から強い陳情がたび重なった。
「自分たちの尊敬する山田方谷先生の名前を残してほしい」という陳情だ。
山田方谷とは、幕末、備中松山藩の元締役として藩政改革に手腕を発揮した人物である。莫大な借金(今の100億円以上)を8年で完済し、同藩を富裕藩に押し上げた功労者だ。
だが、理財家としての彼だけでなく、「藩民のため」という氏の思想が領民の心をがっしりとらえていた。
方谷は藩民のための政治を貫いた。
備中松山では、飢饉があっても誰一人餓死者がでなかった。藩が米倉を解放したからだ。方谷さんが元締めをやっているときは百姓一揆が起きなかった。方谷さんが引退したあと一揆が起きたときも、穀物倉にある「方谷」の文字がある米俵だけは誰も手をつけなかった。
備中松山藩が戊辰戦争で賊軍になったときも、方谷さんの腹を切らせようとする相手方には領民が戦争をしかける覚悟ができていた。
政治家と国民が心と心でつながっていた。
この地には、「方谷さんを誇りに思う」という気分が昭和になっても平成になっても残っている。
備中高梁(たかはし)市で小売業を経営される石井社長が「方谷さんについて」と題して30分ほど語って下さったが、自分の父親の自慢話をする息子のようであった。
各地を見てきて、こんな政治家、多くはない。
非凡会では公共の宿・神原荘(こうばらそう)に18名が泊まった。
昭和初期の大型蓄音機が今も現役で働いている宿だ。当時、この蓄音機の値段は、家が一軒建つ金額だったらしい。
参加者は、地元岡山はもちろん、香川、兵庫、大阪、京都、新潟からも集まってくれた。
各自の志スピーチと私の講演、夕食と入浴をすませた後は、大広間で酒を酌み交わしながらの談論風発。宿の消灯は午後10時という決まりらしいが、寝床に入ったのは午前1時を回っていた。半数は明け方の4時まで語り合ったという。
翌日は、頼久寺で坐禅と写経。
前もって住職に、「山田方谷を勉強している経営者のグループが行きます」とお願いしてあったらしく、住職は気を利かせて事前学習して下さった。
仏教や禅の話だけでなく、方谷にまつわるこぼれ話を長時間してくださり、分刻みのスケジュールを組んでいた幹事の井本さんは、予期せぬご厚意に焦りまくっていた。
その後、備中松山城を見物。ここは、日本に12箇所しか残っていない江戸時代以前に建造された天守をもつ城郭の一つである。
大変めずらしいことに、天守閣の中に囲炉裏があった。
日本三大山城の一つでもあり、あとのふたつは、高取城(奈良県)と岩村城(岐阜県)らしい。
駐車場から天守閣までは山道を歩くしかない。20分程度の登山ではあるが、結構本格的だ。ペットボトルとタオルをもって急な上り坂をひたすらのぼる。女性参加者のMさんは、ハイヒール登山になってしまい難渋しておられたが、結局、みごと走破された。
最後の締めは備中高松城跡を見学。
岡山のカカトコリ・林さんの案内で城を水攻めするとはどういうことなのかを実地に見学させてもらった。
「本能寺で主君・信長が討たれた」の報に接し、光秀を仇討ちせねばならない秀吉は焦っていた。
もともと秀吉は目の前の敵・備中高松城(清水宗治)に手を焼いていたのだ。持久戦模様だった。事態をどう打開するか。
そこで黒田官兵衛の進言を採用し、城を水没させる作戦をとった。
城の周囲を土木工事することにしたのだ。
人夫に過分な金子を与え、突貫工事でわずか11日間で3キロに及ぶ堤防を完成させる。その後、足守川を決壊させ、折しも梅雨時だったことも手伝って城の周囲には水があふれだし、城は見事に水没した。
城主、清水宗治が船上で切腹するのを見とどけ、有名な「中国大返し」で天王山に駆けつけ、光秀を討った。
なぜカカトコリの林さんがそんなに詳しいのか聞いてみたら、彼の実家はこの地から数分の場所らしい。
その後、新幹線で博多へ移動。天神で和僑会の筒井会長と合流し、会食。もつ鍋をつっつきながら会社経営のあり方を語り合ったが、今回も啓発されること大。65才になられても筒井さんは止まっていない。
その収穫話はまた後日。
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