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還暦同窓会余話

「あいにく今日は満室を頂戴しておりまして……」
「そうですか。どうも」

どのホテルに行っても今夜はダメみたいだ。週末の土曜日、しかも春休みとあってどこも繁盛している。それにしても、 iPhone アプリの「乗換△×」では間違いなく存在していた23:56発の最終列車が、大垣駅に行ってみたら、なかった。「次の名古屋行きは何分ですか?」と聞く私。「本日の最終は先ほど出発しました」と答える駅員の表情が心なしか薄ら笑いを浮かべているようにみえた。

(こんなことがあるの?)
アプリの列車情報が間違うなんてあるのか?念のために見た別のアプリ「乗換△▼」では、たしかに最終便が21:36で終わっていた。やむなく大垣駅周辺のホテルをいくつか小走りして「泊めてください」と訪ねて回った。折りしも冷たい雨が降りだした。傘もささずに走ったが、結局ホテルはすべて満室だった。

その日は朝早くに鶴岡の宿を出発した。前日に山形ハーネスさんの31期経営計画発表会と30周年記念式典が行われ、私も参列していたのだ。素晴らしい発表会と式典で感動した。

その翌朝9:14発の列車に乗って新潟・東京を経由し、大垣での同窓会に参加したのだった。一次会には間に合わなかったが17時からの二次会には参加できた。その後の20時半からの懇親会にも参加した。

17歳で高校を卒業し、53歳になったとき35周年記念同窓会が開かれた。互いに浦島太郎のような気分だった。その5年後(58歳)には40周年記念同窓会が開かれたが、それは欠席した。そして今回(61歳)は「還暦同窓会」が催されたわけで、凄いことに、毎回少しずつ出席者が増えているという。非公式の同窓イベントは毎年数回、どこかの街で行われているようで、時間とお金に余裕が出てきた世代ならではの現象だろう。

メールや SNS の普及で連絡がつきやすくなったことや、ネットでのスケジュール調整サービスが充実し、幹事の仕事も大幅に軽減された。そうしたことが同窓会の開催頻度向上や、出席者増加につながっているのかもしれない。

そんな中、当然とはいえ、物故者が毎年増えるようにもなったのはさみしい。転居先不明リストも少しずつ増えているのが気がかりだ。なかには人間関係の軋轢があり、「アイツが出るのならオレは出ない」と決め込む組合せが出来てきたり、「自分はみんなほどには頑張れていないので敷居が高い」と欠席する人もいるらしい。

同窓会なので、昔の話が出るのは当然だが、話していて楽しい仲間というのは皆、現在進行形の人だ。今を生きている人とは会話が途切れない。次回の公式同窓会は遅くとも2018年(64歳)にあるという。そのときにも今回の出席者(101名)より増えていたら、それはそれで凄いことだと思う。

「23時15分だけど武沢クンは大丈夫なの?」と旧友。懇親会でのスナックの中だ。「うん、問題ない。23時56分の最終に乗るから」と私。「じゃあ、もう少し飲めるな」と彼。「そうだな、まだ30分ほどある」と決め込んだのがいけなかった。終電をやりすごし、ホテルもなく、もう一度先ほどのスナックに戻ろうと思ったが、友人を困らせるだけだ。

その日は郊外に住んでいる母親を電話で起こし、泊めてもらうことにした。母は寝ていたが、一回目のコールで出てくれた。
「いまから泊めてくれない?」
「明日はお父さんの月命日だから、たまには線香をあげろとあなたを呼んだのよ」と母。アプリを誤表示させたのは親父のいたずらかもしれない。