●もう30年以上も前の話だが、私はある一時期、草野球の強肩捕手として相手チームに恐れられていたことがある。
二塁に盗塁を試みようものなら見るも無惨、ベースの2メートル手前でタッチアウト。走者も相手ベンチもあ然。
ちょっと脇見している一塁走者には、電光石火の牽制でアウトにしたりもした。
「TAKEZAWA」という名のキャッチャーには気をつけろ!
●ところがある日、肩に痛みが走った。ずきんと痛む。
肩をかばってひじとスナップを効かして投げるようにしていたら、今度はひじも痛めてしまった。強い玉が投げられない。
それ以降は、相手チームにとって盗塁天国。
どんな鈍足の選手でも滑り込まずに二塁や三塁に盗塁できるキャッチャーとして「TAKEZAWA」の名は相手に安心感を与えた。
やがて私は補欠になり、引退した。
●今でも時々子供とキャッチボールをするが、痛めた肩とひじは今も治っていないようで10分間のキャッチボールのあとは三日間痛む。
生活には支障がないが、さて、私の肩は問題かそれとも問題ではないか。
正解・・・問題ではない。
●もし私の目標が野球選手として活躍することなのであれば、痛んだ肩は大問題だろう。すぐに治さねばならない。
だが今の私の仕事では、このままでも何ら支障はない。
●そのことが問題なのか問題ではないのかは、仕事や目標によって変わってくるということだ。
問題とは、目標と現在との間にある溝のことである。
キャッチボールの後は肩が痛むという事実はあるが、それが私の目標達成の妨げになっているわけではないから無問題。
●月間売上高目標が100なのに、実績は80で終わってしまう会社は問題か?
半数の会社は問題視する。「一大事」とばかりに大騒動して対策を講じるのに対し、残り半数の会社では問題としない。
その差は、理想の違いにある。
問題か問題でないかは企業ごと、個人ごとで違ってくるということだ。
●とは言うものの、いかなる企業や職場においても「問題」とすべき事がある。
それは「混乱」だ。繰り返しおこる「混乱」はそのうち常態となり、だれもおかしいと思わなくなるから要注意なのだ。
●ドラッカーが「繰り返し起こる混乱は、ずさんさと怠慢の兆候である」と述べているが、たしかにその通りだと思う。
ある建設会社でこんな事があった。
●借金依存度の大きかったこの会社では、毎月銀行に業績報告書を提出していた。報告書作成はM取締役の仕事だった。
営業拠点が東京・横浜・名古屋・大阪・広島・福岡にあるのだが、社内データの集計に手間取る会社だった。
何がどうなっているのか分からない。それにメール網が完成していなかったこともあり、業績速報をとりまとめるのに半月を費やした。
●時々徹夜になることもあり、M取締役のほほはゲッソリこけた。
それだけではない。M氏の秘書やアシスタントも営業所との連絡やりとりに忙殺されていた。
M取締役の役職は『経営戦略室 室長』。だが実態は「集計屋」だった。
毎月毎月、同じような状態が続き、その都度彼は体力と気力で乗り切った。
●そんな状態が5年も続いたある日、この会社は倒産した。
もちろんM取締役ひとりが悪いわけではない。しかし、毎月混乱に直面する当事者として、こうした状態が繰り返し起きないようにするための根本的な方策を考えてほしかった。少なくとも社内に警報を発する義務があった。
ずさんさと怠慢さを「問題」だと認識しない会社は必ず破綻する。
●毎回起きる混乱に対して、その都度気力と体力で乗り切るということは、いつの日かもっと大きな「問題」をひきおこす元凶なのだ。
ずさんさと混乱を見逃すな!ということを申し上げた次第。