某年某月のこと。
「武沢さんのセミナーに参加したのがきっかけで経営計画を手作りしてみました。よろしければチェックに来ていただけませんか」と請われ、Y製作所の経営計画発表会にオブザーバー参加した。
席上、「売上高を5年で2倍にする」と発表したY社長。
「5年で2倍」ということは、単純計算で年率15%アップの成長になり、同社の最近の実績の二倍近い成長を遂げる、という強気なもの。
経営計画発表会に続いて開催される全社討議では、計画達成に向けての議論が30名の社員全員で行われた。
最初に、営業部の中堅女性社員が手をあげた。
「15%アップの成長はとても難易度が高くプレッシャーを感じているが、会社としてそれを実現するための秘策が何かあるのか」という質問だった。
Y社長は回答した。
「秘策とよべるものはない。だが当社には皆さんという宝もののような”人財”がいるので、それをフル活用すれば年率15%アップなどは難しいとは思わない。それに、今からはじまる全社討議は、目標達成の方策を考える場でもあるので、あなた達が”秘策”を考えだして欲しい」と。
質問した女性社員はあきらかに不服そうな顔を見せ、次の質問を発した。
「15%アップのためには、具体的には何の部門や商品を伸ばすのでしょうか。また、客数を増やすのか客単価を増やすのか、減らすべき商品や客先はないのか、など、お聞かせください」
この質問に対してもY社長は先ほどと同じ回答を繰り返した。
「ですから、それを考えるのがあなたの仕事だと申し上げています。ただし、基本路線としては、客数×客単価のかけ算が売上高ですから、客数を上げる方向で実践策を練るのが得策でしょう」
営業女性は食いさがって、素朴な質問をした。
「客単価向上よりも客数向上の方が良いのはなぜでしょうか?」
今度はY社長が面倒くさそうな顔をした。
私から見てもあきらかに分かるほど、「いちいち細かいことを聞くな」というような表情をみせた。
そして、マイクを握ってぶっきらぼうに「客数アップが常識でしょ。
誰だって客数を伸ばすほうが経営が安定するということくらい知っている。あなたもそれぐらいの事は知っていなきゃ」
とだけ答えた。このとき、会場内の空気が盛り下がったのがわかった。
私は次の予定が入っていたので列席できたのはこのやりとりまで。
翌日、Y社長がお礼のためにやってきた。
「武沢さん、昨日の我社の発表会はずばり何点だったでしょうか?」と聞くので私はこう即答した。
・運営 100点
・内容 30点
Y社長はまったく予期せぬことを聞いたような表情で私の次の言葉を待っている。先ほどまで見せていた笑顔と経営計画発表の達成感の表情が消えていた。
私は30点を付けた理由をお話しした。いや、正確にいえば70点も減点した理由を述べた。それは、大きく三つある。
1.計画の実現策を社員に丸投げしたこと
2.社員からの質問に面倒くさそうな顔を見せ、最高の教育機会を棒に振ったこと
3.「客数アップがいつでも正しい」という思いこみ
<明日につづく>