新入社員教育で「あなたは誰から給料をもらっていますか?」と問いかけることがある。
普通の新人なら、とっさに「会社からもらっています」とか「社長です」と答えるだろう。
だが、ちょっと知識のある新人なら「お客様から頂戴しています」と答えるかもしれない。
さらに勉強している新人は、「私が成し遂げた成果から給与を受け取っています」などと、いっぱしのことを言う若者がいるかもしれない。
だが、私はどの答えにも満足していない。
新人は、「直属上司から給料をもらっている」
と考えるべきだと私は考えている。
直属上司こそが真のお客様であり、その人を喜ばさない限り次はないと思うのだ。
もっと具体的に言うならば、中小企業においては
「新入社員の給料は社長から出ている。社長を満足させることができるかどうかが、あなたの未来を大きく左右する」と断言してしまっても良かろう。
E社長(55才)は、人材派遣会社の社長。彼は今、とても後悔している。「一度給料を止めたろか」と思うこともあるらしい。
E社では過去数年、「私たちは社長も含めた全社員がお客様から給料をいただいています」と教えてきたが、それを今年からやめることにした。
国家が中央集権体制から地方分権体制にシフトしていくように、E社の組織運営も、社長中心から部門長中心、チーム中心へと移行してきた歴史がある。
その一環として数年前に導入したマルチ評価制度では、社員30名が相互評価しあう制度を作った。
そのせいか、社長の人事権が極端に薄まった。
それと同時に、社長を喜ばせようと気遣う社員はいなくなった。
「私にごまをすれと言うのではないが、せめてもう少し私に喜ばれようという姿勢だけでもみせてほしい」とE社長。
E社長の主張はよく理解できる。私も賛成だ。だが、具体的にどうしろというのかを明らかにすべきだろう。
E社長が考える理想の社員像とはどのようなものかを明らかにする義務があるのだ。
そして今の社員が、少しでも理想社員に近づいていくような教育と人事システムを作る責任がE社長にあることを忘れてはならない。
私心がなければ、堂々と部下に言えるはずだ。
「君たちの給料は私が払っている。だから私が君たちの顧客だ。顧客にかわいがられる人になり、顧客の望んでいることを深く理解し、顧客の望む仕事をするのが君たちの仕事だ」と。
そして社員から見れば、「自分は何をすべきか」をシンプルに分かりやすくしておいてあげよう。
たとえば、エムケータクシーの創業者・青木会長は「気持ちよい挨拶をしろ」と社員に要求する。
「あいさつが会社を変えるのだ」との信念から同社をあいさつ集団に作り上げ、今日のエムケーの地位を不動のものにした。
その後、銀行再生を引き受け、まったく同じ手法で建て直している。
組織づくりは人づくりから、人づくりは社長の信念と粘り強さが欠かせない。
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