人事異動を見れば、その会社の戦略がある程度見てとれる。だが、人事に関して定見がない企業は、戦略と人事はリンクしていない。分かりやすい例をひとつご紹介しよう。
世界的なたばこ製造会社の2社がある。ひとつをR・J・レイノルズといい、あの「キャメル」で有名な会社だ。もうひとつの会社は、フリップ・モリスだ。日本では「マールボロ」でおなじみだ。実はこの2社の実力差は相当な開きがあるようで、かの名著『ビジョナリー・カンパニー2』でもたびたび対比して紹介されている。フィリップ・モリス社の経営力のほうがかなり上をいってるようだ。
さて、1960年代の初頭、この2社はともに売上高の大部分を国内事業部のみに依存していた。今から40年ほど前のこの段階では、今と立場が異なり、R・J・レイノルズ社が首位だった。さて、この両社の運命を大きく分けることになる国際事業について、当時の経営陣の意志決定がおもしろい。
R・J・レイノルズ社の経営者は、ビジネスウィーク誌のインタビューでこう答えている。「世界のどこかにいる外国人が『キャメル』を買いたいというのなら、電話をかけてくればいいんだ。」
これは発言だけにとどまらず、同社は事実しばらくそのように行動した。
一方、フィリップ・モリス社のCEOだったカルマンはどうしたか。その当時、まだ1%に満たない国際事業こそが長期的な成長機会に恵まれた宝庫だとみていた。そしてカルマンは国際事業を開拓するための最高の戦略とは何かを考え続けた。
そして、素晴らしい答えを見つけ出したのだ。それは、「何をすべきか」を考えるのでなく、「だれを選ぶべきか」を決めることが自分の役目だと気づいたのだ。
カルマンは、社内でもっとも優秀なジョージ・ワイスマンに白羽の矢を立てた。
ワイスマンといえば、その当時、全売上の99%を占める国内事業の責任者であり、国際事業部とは名ばかりの不振部門であった。
左遷だ、降格だ、と社内外で騒ぎ立てられる人事であったが、このカルマンの人事は後になって天才的なものと言われるようになる。
やがてワイスマンの指揮のもと、国際部門は同社のなかでもっとも成長率が高く、なおかつ規模の大きい部門に育った。
「マルボロ」はアメリカ国内市場よりも、3年早く世界市場にて首位にたっている。
決して、問題部門やお荷物整理に優秀な人材をあててはならない。もっとも優秀な人材を、もっとも成長可能性の高い部門に配属するという原則はどの企業にも当てはまると見ている。
冒頭に述べたように、戦略と人事はリンクする、いや、させるべきだと思う。
(参考:ビジョナリーカンパニー2 日経BP 刊)