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日光ひとり読書旅

連休を利用して奥塩原温泉と日光を一人旅してきた。

今回のテーマは未訪問県・栃木へ行くという事だけでなく、良質な温泉で身体を癒し、日光東照宮に詣って鋭気をフル充電するのが目的。
そして、旅のおともは良質な一冊の本。

出発前、「さて、電車で何を読もうか」とカバンをチェックする。

・小さな会社の継がせ方(日本実業出版)
・感謝のメッセージ(大和書房)
・御社の売りを小学5年生に15秒で説明できますか?(祥伝社)
・不機嫌な職場(講談社現代新書)
・デキる社長は持っている社員の声を「聞く力」(総合法令)
・本物の社員になれ(総合法令)
・・・etc.

どれも読みたくてカバンに放り込んだものだが、いずれも一人旅の列車で読む気分にはなれない。

駅構内の書店で『本は10冊同時に読め』(成毛 眞、三笠書房)を買う。マイクロソフトの社長をやりながら、氏が何をどのように読んできたのかが興味深くて買った。

東京発、那須塩原行きの特急「なすの257号」に乗る。「贅沢穴子めし」(1500円)と缶ビールのランチをとりながら、成毛本を読む。上野から大宮へ向かう途中、何気なく西南の方向に目をやると、富士山の姿が山頂からふもと付近まで流麗に見える。

「へぇ、上野からは富士がこんな風に見えるんだぁ」としばし感動。

成毛氏の「同時に何冊もの本を読む」というやり方は私と同じだが、読書の傾向があまりにも違うし、本に対する考え方もまったく違う。

氏は、本を大切にする。書き込みはしないし、付箋をはったり折り曲げたりはしない。読み終わった本も大切に保管していくので、かっこいい本棚をもつことはとても大事だ、と説く。

私は本を読む前にカバーを外し、捨てる。そして、いきなり本の中心あたりのページをまっぷたつにして本を開きやすくする。読むときには、付箋をはったりページを折り曲げたり、書き込んだりと、どんどん本を汚し、痛めていく。ひどい時にはページごと破ることだってある。

成毛氏はスケールの大きな本を読むのが好きなようで、それが天文関係の本やSF、ハードボイルドものなどへの興味につながっていったようだ。それに対して、夏目漱石や司馬遼太郎作品などには興味がまるでないようで、「竜馬がゆく」ファンなら聞き捨てならぬ評価まで下している。

司馬遼太郎と竜馬をけなされてはだまっていられない、本来なら腹がたって途中で読むのをやめて電車の座席棚に放り投げるべき本だ。

だが、氏は経営者の間でも評判になるほどの読書人だというし、敬意を払って最後まで読む決心は変えない。

山岡鉄舟が足繁く通ったという奥塩原温泉の「下藤屋」は、湯よし、料理よし、部屋よし、人よしと何でも揃っている。
新幹線「那須塩原」駅からバスに乗り換え80分。終点「塩原温泉」駅からタクシーに乗って更に山奥めざして20分登ると到着する。

この時期、奥塩原は雪に覆われているが、ふだんは山肌からもうもうと硫黄のけむりが噴出している場所らしい。

「下藤屋」での夕食は、部屋食。一人、もちろんテレビを付けず、成毛本を片手に、びんビールと栃木牛のしゃぶしゃぶを楽しむ。

ようやく完読し、氏が「特にこの本が面白かった」という本を2冊ほどamazonに発注し、ふたたび湯につかって寝る。

一人旅の二日目、奥塩原から日光へ移動する。
途中、乗り換えのために宇都宮駅構内の書店に立ち寄り、成毛本でも紹介されていた「海辺のカフカ」(村上春樹)を買う。

村上本は今まで「東京奇譚集」を一冊読んだだけで強い印象はない。
なぜ氏の評価が高いのか、よく分からない。

だが、この「カフカ」は実に良くできていた。所々意味不明、いや、半分以上が意味不明だが読み物としてよくできている。何が良いって、言葉の魔術師だ。言葉をこれほど上手に操れる書き手がいたとは。
「ダ・ヴィンチ・コード」のように、ストーリーは面白いが、文章はつまらないという本は読んでいて結構苦痛だが、ストーリーも文章も面白いという本はそれほどお目にかかれるものではない。

宮部みゆきの「模倣犯」も滅多にお目にかかれない一冊だったが、あの作品は読後感が悪い。

読み終わったあと、今を生きる勇気と希望を与えてくれるという点で「海辺のカフカ」は良くできているし、再読・再々読したくなる本だ。

さて、日光。

日光金谷ホテルのコース料理は、一人で食すにはもったいないほどの料理とワイン。私以外にも一人で食事を楽しんでいる若い女性がいたが、彼女は料理とワインに何かを話しかけながら、上半身全体を使っておいしさを表現しながら楽しんでいた。

私は、「海辺のカフカ」を片手に、牛フィレ肉のステーキとカベルネソーヴィニオンを楽しんだ。

こんな旅行も悪くない。