事業承継について昨日の続き。
映画『ゴッドファーザー』でのマーロン・ブランドとアル・パチーノ親子のように、最初は線の細いお坊ちゃまだった息子が、修羅場をくぐるうちに実に頼もしいドン(親分)になっていく。
親子から同志へ。
そして親の時代とはまったく異なる、新時代にあった組織を作り上げていく後継者。そんな関係が事業承継の理想だ。
さて、会社を息子・娘・娘婿・親族に継がせたくない・継がせるべきではないと考えたときには、幹部社員の中から後継者を選ぶことになる。
幹部の中の誰を後継候補者にするのか、そしてその選定基準は何かを考てみよう。
よく過ちをおかすのは、「5年後は君が社長だ」と、早めに後継者を発表してしまうことがあるが、それはよくない。
なぜなら、人の成長は驚くべきものがあり、今は目立たぬ存在でも、今後、急成長する人材が出てくる可能性がある。あるいは、そうした人が今年入社してくるかもしれない。
逆に、期待していた人が成長に急ブレーキがかかったり、何かの事情で能力が後退することだってある。
だから、あくまで幹部全員が候補者であり、自由競争の環境から後継者を選抜するのが鉄則だ。
「私の後継者はこの人です」と発表するときは、実際に社長が引退する時である。
もし、引き継ぎなどの事情で早めの発表が良いと判断した場合でも、せいぜい一年前までにしたい。早すぎるのは百害あって一利なし、と考えよう。
ただし、幹部社員全員を集めて早めに予告すべきことがある。それは、次のことだ。
「今後○年以内に私は社長の座を退くつもりだ。私の退任後は、君たちのなかの誰かがこの会社のオーナー社長になってもらう。私は、きれいさっぱり退任して会社には顔を出さない。呼ばれれば会社に来ることもあるかも知れないが、私をあてにしないでほしい。
君たちに会社を買い取る資金がないのは分かっている。今はなくても構わない。貸してくれる金融機関を私が連れてくる。
良い会社をつくるための情熱と才能がある人には皆、この会社のオーナー社長になれるチャンスがあると思ってくれて間違いない。そのつもりで励んでほしい」
その後、ひとりひとりの幹部を呼んで「君はそのつもりがあるか」と確認もしよう。そうすれば、社長は本気で言っていることが相手に伝わる。
あとは、幹部が買いたくなるような会社を引退までに作っていかねばならない。
それは先述したように、経常利益が一定金額以上出ていることと、社長がいなくなっても利益が出続ける状態を作っておくことだ。
だが、もし幹部の誰ひとり興味を示さない場合はどうすればよいのだろう。
実は社長が言っていることの意味がよく理解されていないから無反応になることも多いはず。
また、億単位のお金を用意できないし、借りられるほどの個人信用力がない、と決めてかかっているから現実感をともなわず、反応しないこともある。
決してあきらめてはならない。じっくりと時間をかけて説明し、その気にさせていこう。
オーナーの持ち株を幹部が買い取る方法として一番有効だと思われるのがMBO(マネジメント・バイアウト)だ。
そのやり方を社長自身が幹部に説明しよう。それが無理なら銀行か専門家を連れてこよう。
社長にまず読んでいただきたいのは、株式会社ベンチャー・リンクが発行しているビジネスレポート。
レポートNO.604260に『MBOによる事業承継の方法(2008年1月発行)』がある。これがわかりやすく出来ている。
ベンチャー社の会員になるか、何かのセミナーに参加してスタッフに頼めば入手できるはずだ。
他には、サイトや書籍でもMBOの情報は手に入る。
事業継承を目的とする資金調達の専門家も各地で活躍している。
それもインターネットで探すか、金融機関に紹介してもらおう。
MBOとは、要するに株主から株を買い取ってオーナー権を移動することである。目的は三つ。
1.上場会社の非上場化
2.企業グループからの離脱
3.事業承継問題の解決
同業他社などに会社を売るのなら資金調達法を考える必要はないが、幹部社員に株を買い取らせるとなると、資金調達も含めて社長がフォローしてやらねばならない。
MBOのやり方を簡単に説明しておこう。
仮にA社の値段(株式の時価総額)が5億円だとする。
その場合、MBOを使ったオーナー権の移動スキームはこうなる。
1.まず後継候補者(複数可)が金融機関と一緒になって新会社「B」を設立する。仮に、資本金は一億円。幹部の出資金は1割の1,000万円としよう。
2.新会社「B」設立後に、銀行はさらに4億円融資する。
3.新会社「B」のキャッシュ5億円で「A」社の株を現オーナーから買い取る。
4.その後、BとAが合併する。
これで完了。経営権は新会社に移動し、そのオーナーである後継候補者と銀行のものになった。
新会社「B」では、社長の役員報酬を大きくし、その報酬の中から銀行の持ち株を買い取っていく。
そして数年かけて、100%新オーナーの会社になる。
まるで手品を見ているようだが、本当にできる。
銀行からみれば、「A」社に対する9000万円の出資、4億円の融資の双方で4.9億円のリスクを抱え込むことになる。
それに見合う担保と個人保証を要求するのは当然としても、資金回収のメドが一番気になるところ。
仮に4.9億円を7年で返済するならば、毎年7,000万円の元金を返済していかねばならない。新社長の役員報酬は年額8,000万円以上になるだろう。
それでもさらに経常利益が確実に出るような見通しがあれば銀行もこわくない。
当然、日頃の信頼関係と充分な事前交渉が前提ではあるが、これが、MBOのやり方だ。
決して机上の空論ではなく、すでに上場企業のみならず非上場企業においても使われている実践的な方法なのである。
よく研究していただきたい。
ベンチャー・リンク http://www.venture-link.co.jp/index.html
MBOとは http://www.fxprime.com/excite/bn_ykk/ykk_bn29.html
<この稿、反響が多いので明日の金曜日号で「総集編」を書きます>