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質問と合いの手

ある時、私の講演のあとに質疑応答用にと20分ほど時間を確保した。

主催者が聴衆に向かって「なにか質問はありませんか?」と水を向けたのだが、質問が出ずに困った。

「質問のある方、挙手をどうぞ」
(シーン・・・)
「どんなことでも結構です。いかがですか?」
(やっぱりシーン)
「どなたかありませんかね、じゃあこっちから当てます。鈴木さん、どうですか?」
「う~ん、・・・、いえ、別に。大丈夫です」

こうなると、盛り上がりに欠けることおびただしい。

講師のプロはそうした修羅場を何度もくぐってきた経験から、自分なりの対処法をいくつか持っているものだ。
まずその前に、なぜ質問が出ないかという事を考えておこう。

考えたくないことだが、講演がつまらなかった場合は質問が出ない。
早く講師を壇上から引きずり下ろしたい場合は沈黙を決め込むのが一番だからだ。
講演が完璧だった場合も質問が出にくい。聴衆はすっかり満足しており、疑問や疑念が入り込む余地がないので質問が出ないのだ。

だが一番多いのは、質問したいことはあるのだが質問しづらくて遠慮するケースだろう。
「下手な質問をして講師や主催者、会場全体に迷惑じゃないのか」と思ってしまって遠慮するのだ。

私はそんな時、こんな話をして質問を出やすくする。

「この前なんか90分間にわたって財務の講演をしたのですが、最後になってから “粗利(あらり)って何ですか” って基本的なことを聞かれてビックリしました。おいおい、今までさんざん粗利について語ってきたのに・・。そこで、私に変わって最前列にいた経営者の男性に粗利の解説をお願いしたところ、”いや、実はオレも分からん”って言われたのですよ。参りましたね。もちろん、粗利って売上から原価(仕入れと外注費)を引いた利益のことですよね。でも、”聞くは一時の恥 聞かぬは一生の恥”といいますから、粗利の質問をしたその方の勇気に敬意を表したいとも思いましたよ。さ、これを機会に何か聞いておきたいことは遠慮なく、ドシドシどうぞ」

この話を聞けば、聴衆の多くは「自分だって粗利くらい知ってる」という優越感と同時に、その程度の質問だって許されるのかと、すこし安心する。それが質問の遠慮を取り払うことになるのだ。

その他、ハウツー的なことを列挙してみる。

1.質問を誘導する「穴」を用意しておく
例えば、配布したレジメ(要約)をあえて一つくらい飛ばして話す。そうすると、そこを質問してくれやすくなるし、質問が出なかった時でも、講師の方から「あっ、こ
こがまだでしたね」と話し出せる。

2.進行役・司会者に代表質問をいくつか用意しておいてもらい、聴衆から質問が出ない場合は変わって質問してもらう。

3.聴衆の中に仕込む。
「山田さん、今日必ず最後に質問をひとつお願いします」と知り合いの聴衆に頼んでおくのだ。

余談ながら、歌舞伎の世界には「合いの手」というものがある。
合いの手は質問ではないのだが、講師をその気にさせ、場内を引き締める効果がある。

歌舞伎では、芝居のタイミングをとらえて、「音羽屋っ」「成駒屋っ」と声を発する専門の合いの手グループがいるのだ。
歌手や舞台役者でもおかかえの合いの手グループをもっている人がいるが、私も講演で合いの手アルバイトを雇おうかしら。
「いよっ、がんばれ屋っ!」

「がんばれ屋!」は冗談だが、質疑応答の時間に質問ならぬ感想を発表してくれるのもありがたいことだ。

「今日はこういう点がとても勉強になりました。さっそく明日から実践してみようと思います」などと合いの手が入ると講演は引き締まる。

ちなみにこちらのサイトが合いの手のサンプルだが、ここまでやると、かえって講師はやりにくい?
いや、もう笑うしかない↓

爆笑 合いの手 結婚式スピーチ「中村屋」
http://cross-breed.com/archives/200601152232.php