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大胆さの魔力

顧客満足を高めるためにがんばることは結構なことだが、その姿が「顧客迎合」と受け取られると社員はテンションを下げる。

お客を取るか、社員を取るか、という究極の二択になることだってある。

三重県の水道工事店M社では、いつも支払いが悪いゼネコンB社の存在に手を焼いていた。

B社からの支払いが遅れるのはもはや日常的であり、ようやく振り込んでくれたとしても、その金額の理由が分からない。
電話で問い合わせると、工事ミスや工期遅れなどの難癖をつけ一方的に減額しているのだ。
そのくせB社の担当者の態度はでかく、あからさまに接待を要求したりする。
そうした行状に対して、M社で一番泣いているのは現場担当者なのだが、M社長はそうした事実よりも売上金額の大きさ故にB社との関係を是正する気配はない。

「社長、お願いです。なんとかB社の横暴を抑えていただけませんか」と社員が訴えても、M社長はこんな発言を繰り返すだけ。

「私たちの仕事はお客様に喜ばれてナンボです。お客様は神様であり、お客様の声は天の声なのです。実際問題、皆さんの給料は会社が払っているのではなく、お客様が支払ってくれているのです。そんなお客様の悪口を言える資格はあなた達にありますか?」

M社長はこうした発言をくり返すことによって、お客を取って社員を切ったのだ。

そうしたある日、社員数名が結託して集団辞表を提出した。

社員にとっては、B社と仕事をすることがそれだけイヤだったのだ。
横暴を極めるB社との付き合いには、何らかの大義名分が必要だったが、M社長にはそれがなかった。
単に、「神様」「天の声」を繰り返すだけのM社長に対する失望が辞表につながった。

M社長は、社員数人だけでなく、半年後にB社との取り引きも失った。

顧客をクビにできない社長は、真に顧客を大切にすることができなくなるし、社員も守れなくなる。

時と場合によっては、お客をクビにしよう。お客に大胆さを見せられない会社に値打ちはない。

お笑いタレントのような人気商売だって、お客から嫌われることを恐れていては人気が出ない。大胆にありのままの自分をさらけ出し、その結果はお客にゆだねるという潔い姿勢が大切だ。

タレント「人気ランキング」と「不人気ランキング」に同じタレントの名前が登場することがよくあるが、あれで良いのだ。

世界を代表するような「超」が付くほどの一流建築家に建築依頼した施主の半分は、「もうあんな建築家に二度と仕事を頼むものか」と憤る。
お客の言うことを聞かない。お客の意向をくみ取ったなら、それをどのようにデザインするかは、作者である建築家の問題であって、施主の要望をいちいち聞いておられない、というのが彼らの主義だという。

だが、残った半分からは神様扱いを受ける。

誰からも批判されることがなく、それでいて実は誰からも愛されることがない人畜無害な人・会社になるのはやめよう。

お客から好かれるためにいらぬ気を使うのはやめよう。

仕事の質だけで勝負できる領域を見つけ、堀り下げれば、汲々としなくたってやってゆける。
本業を極めることにもっともっと大胆になろう。そうすれば、お客に対しても大胆になれる。