東京ディズニーランドで働くアルバイトが、ある年のベストアルバイトに選ばれた。その彼が(彼女かも)やったことは、雨の日にメリーゴーランドに乗ろうとするOL客にひざまずき、自らの膝を踏み台にして乗せてあげたというのだ。これはマニュアルには書いていない。こうした、とっさの行為が出来ること自体が教育や社風の力である。
というようなお話しをある経営者にして差し上げた。すると意外にも予期せぬ返答が返ってきた。
「武沢さん、それはどうかと思うなぁ、私は。」
てっきり感動してもらえるものと思っていた私は、我が耳を疑った。
「えっ?どういう意味ですか?」
「だって、ほら。一人のお客さんに特別なことをしてしまうと、それをしてあげられない他のお客さんに不公平になるじゃない。それって“やぶへび”っていうやつじゃないのかなぁ。」
なるほど、そういうものの見方もあるのか。
“じゃあ、これではどうだ”と、私は別の話をした。アメリカの百貨店『ノードストローム』の話だ。いつでもレシート無しで返品受付可能で、お店で売っていない商品まで返品に対応した販売員など、社内には“伝説”があふれている。
だが反応は変わらなかった。
「武沢さん、それこそ“やぶへび”の極みというもんだ。もし全国にあるお店にそうした返品がなだれのようにやってきたらどうするの?莫大な資金を各店に用意しておかないと成り立たないじゃない。それとも、よほどの性善説の信者なのかな、その社長は。」
今度こそ私はムッときた。なぜなら、ご相談の内容が、CS(顧客満足)向上のための社内システム作りなのだから。社内システムうんぬんよりまず、この社長の顧客満足に対する考え方に問題があるのではないか。
「やぶへび」が相当お嫌いなようだが、顧客満足への取り組みには、「やぶへび」を恐れない精神が大切だ。
全ての挑戦には「やぶへび」がつきまとう。ものごとの作用ではなく、副作用ばかりを気にしていると、その進路はいつも「やぶへび」だらけということになりかねない。
作用と副作用の両方を見ることは大切だ。そして、どっちが大きいのかよく考えることである。
それでも1時間後、この社長は勇気ある決断をされた。
「やぶへび」を恐れず、取引先に対する満足度調査をしてみることになったのだ。