目の前に百万円を積まれ、こう言われた。
「これを差し上げる。だから、今すぐタバコをやめてほしい。やめられなかったら、これを倍にして返してもらう。5秒で決断してくれ。」
これは仮の話だ。あなたが愛煙家だとしたらどうする?
私ならこの条件、乗る。もちろんその理由は、百万円が欲しいからだが、それだけなら倍返しのリスクが高い。もう一つ理由がある。それは、禁煙そのものに価値があるからだ。
私たちの目標設定にもこの二つの理由があればベストだ。それは、目標達成から得られる有形無形の報酬に価値があること。あとの一つは、行為そのものに価値があること。
かつて私はフルコミッションビジネスを経験したことがある。売上げのχ%を報酬として受け取るのだが、売れなければ報酬はゼロだ。いや、それだけでは済まない。資料代や諸経費が給料日には請求される。給料日に会社の口座に送金するのは何とも複雑な気持ちだ。
なぜフルコミッションセールスマンになったか。それは、その商品そのものに価値を感じ、それを人々にセールスするということに価値を感じて参加したのだ。もっとお金が欲しかったというのもあるが、まずは仕事に価値があった。
やがて売れるようになり、マンションや外車を買い、食事は寿司屋や洋食レストラン、服はブルックスブラザーズ以外では買わないという生活が始まると、スランプがやってきた。仕事の価値を忘れ、仕事から得られる報酬にだけ価値を感じるようになったのだ。「目標○○○万円、収入○○○万円、私はできる!」と自分を叱咤した。ますます売れなくなった。
「Back to the Basic」 基本に返ることによって一年間のスランプを克服することが出来たが、時々今でもその頃の私のような会社に出会うことがある。
「みんなでイイ夢みようぜ!」とばかり、きらびやかな未来像を描き、威勢良くセールスマンが飛び出ていく会社だ。そうした勢いは大切なのだが、今やっている仕事そのものに価値を感じるようにリードしていくことが経営者の役目だと思う。世の中に対して誇れるような何か一点をはっきりと自覚させてあげるのだ。
目標の達成から得られる報酬ばかりでなく、仕事そのものに価値を持つことが大切である。
余談だが、冒頭の“禁煙百万円”に近いことをしているグループが実在する。私も仲間に入れてもらいたいものだ。