長野県の前知事・田中康夫氏が脱ダム宣言をして依頼、「そのダム本当に必要?」という議論が各地でわきおこった。
たしかにダムを濫造するのは費用的にも環境的にも大問題なのだが、ダムそのものは悪者ではない。ダムは利水や治水の観点から必要なものであることは言うまでもない。
“経営の神様” 松下幸之助氏がかつて説いた「ダム式経営」。
ダムに水を溜めて、水門をコントロールすることで自在に水を活用するように、企業の資金や人材といった経営資源も日ごろから蓄え、ここぞという時に思いきってそれを使えという教えである。
松下氏の「ダム式経営」について私たちは知識では充分理解していることと思うが、それを実践している人はそれほど多くはなかろう。
そもそも中小企業は、現預金を潤沢に持つ必要などないかも知れない。
余剰資金があれば、それを設備投資やシステム開発、人材投資などに回したいという気持ちもよくわかる。
だが、ダムや水門のない川はどうなるかを考えてほしい。
雪融け水が流れ込む春先から梅雨前線が大暴れするころ、それに台風がやってくる季節にはいつも川が氾濫し、災害となる。
その逆に晴天が続き、長いあいだ雨が降らないと今度は川が砂漠のように枯れあげってしまって人間だけでなく農作物にまで悪影響がおよぶ。
企業の資金だって「成長のために必要だから使う」と思っていては、やがて干上がるのだ。
利益が出ていようがいまいが、慢性的に資金が足りない会社は「ダム式経営」をやろう。「ダム式経営」は、それをやろうという心構えだけでなく、実践システムが必要だ。
システムとは、それを忘れていても自動的にやれる仕組みのことだ。
ひとつのやり方はこうだ。
まず銀行口座を複数用意しよう。最低三種類の口座が必要だ。
まず一つは、納税資金用口座。法人税や消費税、事業税などあらかじめ想定した金額を毎月プールする。今後、納税で銀行借り入れしないと決めよう。
二つめは、ダム式経営用の資金口座だ。要するに企業の定期積金だ。
これも毎月決まった日にちに、決めた金額をこの口座に資金移動してしまう。
この二つの口座は、すぐに換金しやすい普通預金ではなく、ちょっと面倒な納税準備預金や積立預金などが良いだろう。
三つ目は通常の決済用口座なのだが、これも本来ならすべて一本の口座に集中させるのではなく、理想は勘定科目ごとに一つの通帳とし、予算に応じて残高を調整しておくのがよい。そうすれば「社長、交通費の予算を早くも使い切りなのですが、どうされますか?」と経理がアラートしてくれる。だがそれでは煩雑なので、とりあえず一本で良い。
最後に投資用口座だ。
さて資金をダムに蓄え、必要に応じて投資に使っていくのだが、明日の号につづく。