久しぶりにお目にかかった関西のG社長(40才)が、ちょっと相談があるという。
酒癖がわるい営業部長(58才)の処遇をどうすべきか悩んでいるらしい。創業者の父が急逝し、急きょG氏が実家に戻って社長に就任して今年で4年目。
G社長は営業部長の酒癖が悪いということをウワサで知ってはいたが、酒席をともにすることがないまま4年を経過していた。
だが、今年から社員と会食する機会を増やしているG社長。当然、営業部長との酒席も増えたことから、聞きしにまさる酒乱ぶりをまのあたりにすることとなる。
先日も部下の営業マンにからんだ。
「おい、山田。お前の大ボラは聞き飽きた。いつだって発表した目標の半分しかやれないじゃないか君は。社内でみんな、お前のことを何て呼んでるか知ってるか?え?知らない、教えてやろう、『狼少年』だ、ダーッハッハッハ!言い得て妙だ、悔しかったら目標どおりやってみろっつうの」
最初は適当にあしらっていた山田君も、あまりにしつこいので反論・抗議すると場はますます炎上するという。
ところがこの営業部長、日ごろは真面目で仕事はできる。むしろ、まったく別人であるかのように大人しく、コツコツと実績を積み上げていくタイプだという。
G社長も思いあぐねたが、思い切って昼間に二人で喫茶店へ行った。
「部長、酒席も仕事の一部だと思ってください。酒に酔っているとは言え、部下をおとしめるようなことはあなたらしくない。二度とあのような発言はしないようにしてほしい。どうしても部下に指導したいことがあれば、昼間に会社でやって下さい」と忠告をあたえた。
営業部長は深々とお辞儀し、
「はい、そのような失言を発したことを他の者からお聞きして恥じ入っております。実は憶えがないのです。大変失礼をいたしました。二度とかような失態がないよう、慎みます」
と、ものすごく反省している様子。
だが、その後も酒席があるたびに営業部長の乱心が続くので、G社長は、降格または解雇も辞さない構えでいるという。
だが、たとえ降格しようが解雇しようが、彼自身の酒癖を直さないことには彼に一生、酒の失態がついてまわる。
だから「リーダーとしてどうすべきか?」というのがG社長の相談内容だった。
私はその時、ある逸話を思い出した。
南北戦争当時、リンカーンがグラントを最高司令官に任命したとき、グラント将軍の酒好きを危惧する部下がいた。
「あの酒飲みに最高司令官がつとまるのか?」というのだ。
グラントの酒好きを聞いたリンカーンは、「この国家非常事態のとき
くらい酒はやめてほしい」なんて野暮なことは言わない。
むしろその逆にこう言ったのだ。
「銘柄をしらべて贈りなさい」
そして、グラントを最高司令官に任命したことが南北戦争のターニングポイントとなっていく。
酒好きという人間の弱みの部分ではなく、戦上手という仕事の強みにもとづいて人事を行うのがリンカーン流だった。
弱みに基づいて人事を行えば、社内に誰もいなくなる。
強みに基づいて人事を行うのが大原則である。ただし、強みをも帳消しにしかねない弱みについては、本人と一緒になって克服プログラムを作り、実際に克服させていくのが中小企業における社長のリーダーシップだと思う。
その後、G社長は営業部長にどのような対処をされたのかは聞いていない。
自宅に部長好みの焼酎をドーンと贈ってあげるくらいの度量があれば良いのだが・・・。
Gさん、これを読まれたらメールください。